星乱拳客伝 外伝 −鋼の記憶−

星乱拳客伝 外伝 −鋼の記憶− 第7巻



転の起章

(どちらが?)
疑問を察知したのだろうジェシカが言った。
「私が一着、残る一着を使われる方を教えていただけますか?」
ジェシカの微笑みに忘れそうになるが、俺たちゃ急いでる、こんなとこで。。。
「シャトルの機器の扱いがお分かりになるのであれば、二着ともお渡ししてもよろしいのですが・・・」
規則に反しますがとジェシカが付け加える。
なるほど、確かに。。。
俺はカーゴルームの扉をぶち壊すつもりだったのだ。
「ハル、残れ」
そう言って、後部デッキから追い出すと、ジェシカと俺はお揃いのオレンジのスーツに着替えた。
「アニキぃ」
ヘルメットごしにハルの声がこもって聞こえる。
それ以上言わないのは、日頃の躾(しつけ)のおかけだ。
「密閉します」
明瞭なジェシカの声がヘルメット内部のスピーカーを振るわせる。
俺は握り拳から親指をくいっと立てて了解の意思を伝える。
「左腕タッチパネルの一番大きい緑のボタンで会話できます」
ジェシカが後部デッキの密閉を完了させ、こちらを振り向く。
「了解」
教えられた通りに、今度は音声で了解の意思を伝える。
腰のカラビナを一つ外し、外部ドア脇の手すりに取り付ける俺。
「けっこういけるくちですね」
エアロック内の減圧を済ませてからドアを開けることになってはいるが、
万一エアロック内に空気が残った状態でドアが開いたりしたら、そのままお星様ってことにもなりかねない。
宇宙遊泳ってやつは文字の印象みたいにお気楽なもんじゃないってのが現実だ。
エアロックの扉上部に設置されたランプが緑から赤に変わる。
ジェシカは壁のコンソールからこちらを振り返り、腕のボタンを押した。
「空けます」
明瞭な声がスピーカーから聞こえる。
俺も腕のボタンを押して返答した。
「了解」
ばしゅっ
っと足元から空気が抜けて行くと独特の感覚がやってきた。
高層ビルのエレベータで急上昇しているような感覚に近いかもしれない。
「シャトルの外装はPPDMコーティングされていて、靴は吸い付きませんので」
宇宙服の靴には、磁力を発生させて船の外側に張りつく機能があるのだが、さまざまな素材やコーティング技術のおかげで役に立たないことが多い。
ジェシカはそのことを言っている。
「了解」
俺が短く返すのと同じタイミングで、
「空けます」
ジェシカがエアロックを開いた。



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