星乱拳客伝 外伝 −鋼の記憶−

星乱拳客伝 外伝 −鋼の記憶− 第7巻



起の転章

「アニキぃ、やっぱヤバイみたいっすよぉ」
前の席の男と『会話』している間に、情報収集に行かせたハルが耳元で囁いた。
「係員は通常通りの運航でございます・・・って繰り返すだけなんスけど、やっぱりどこかおかしいっス」
「後ろのトイレに行ってから、席を探すふりしながらふらふら前へいったんスけど、ちょうどあのあたりで止められちゃったんスよね」
ハルが前方のスクリーン脇のカーテンで仕切られた場所を指差した。
「ご苦労」
珍しく、ご苦労なんていっちまったのは、前の席の男と外の光点の『会話』を追っていたからだ。
横でハルが目を丸くしている。
よっぽどびっくりしたのだろう、そのまま黙っててくれ。
通信内容は、俺と男の会話をもう一度なぞった後、光点から何かのコード化された指示が送られてきた。
きっと、いくつかある作戦のうちの1つなのだろう。
それが、この船の破壊命令なのか救助作戦なのか、それすら分からない。
ほどなくして(了解・終了)と両者は締めくくった。
瞬く光点が沈黙すると、最新のクローキングデバイスを使用してるんだろうが、見事に星宙(ほしそら)と同化した。
(問う・終了)
と窓枠を叩こうかとした、その瞬間だった。
「奇遇ですなぁ」
と灰色の髪に高そうなスーツの男が話しかけてきた。
仕事のできそうな大企業の重役って雰囲気だ。
「キミの姿を見かけたという者がおりましてね。ほら、こういうことを確認しておくことも私の仕事ですからね」
前の席の男へ向かって話しは続いた。
「向こうの席にお仲間もいらっしゃいますよ。ご一緒いたしませんかミスターグランツ?」
前の席の男はグランツって名前らしい。
「そうかい、あいにくこっちはプライベートな旅行中でな、仕事の話なんざ御免だノーダさん」
まぁそう云わずにと、ノーダと呼ばれた男がグランツの耳元で何か囁いた。
少し間を置いてグランツが立ち上がると俺と一瞬目が合った。
若い。
30手前だろう風貌。
その瞳は俺を値踏みするように凝視していた。
僅かに引かれた顎。
「あとはよろしくたのむ」
そういう意味だ。
少なくとも俺はそう受け取った。
俺も僅かに顎を引く。
「では、まいりましょうか」
グランツに背中を見せないためであろう、ノーダは通路を空けて待っている。
床に置いたカバンを取り、通路へ体を滑らせるとグランツは振り返らずにカーテンの向こうへ消えた。
(さて、どうしたもんかな・・・)
足下に転がるフラッシュライトはグランツの置き土産であった。



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