星乱拳客伝 外伝 −鋼の記憶−

星乱拳客伝 外伝 −鋼の記憶− 第6巻



追の結章

手前のビルド・アームまでの距離20メートル程。
その距離を四歩で・・・もちろん『歩ヒョウ』の脚でだ・・・詰めると、唸りを上げて襲いかかるビルド・アームの右腕を上へ跳ね上げた。
ただ単にビルド・アームが振り返っただけのように考えられなくもないが、そんなこと今更言ってもしょうがねぇ。
『歩ヒョウ』=『レン』をビルド・アーム の胸元へ滑り込ませた俺は伸びあがるように右掌をビルド・アームの下アゴ・・・頭部センサー群の下部ってことだ・・・に叩きつけた。

バリッ ギシィ めりッ ギシャ

様々な破壊音が連続する。
その感覚はモナカを食った時の歯ごたえ・・・表面サクサク、中やんわり・・・に近い。
まあ、こればっかりは実際に体験してみないと解らないだろう。
頭部を破壊されフリーズしたビルド・アームを右膝ですっ飛ばすと、俺はもう一体の方へ視線を飛ばした。
これにビビったのか・・・普通はビビるぜ、なんたって目が三つもある『歩ヒョウ』だからな・・・残った奴は仲間を見捨てて逃げやがった。
別の仲間を呼ばれちゃ面倒だ。
それに、こっちに非がないとしてもエージェントライがやってくる前にカタをつけておきたい。
俺は全速で追おう・・・と思ったら二歩で追い着いた。
土木作業用のビルド・アームじゃ無理もねぇ。
格闘戦用に調整してあるのならともかく、パワーと丈夫さが売り物の機械にたいしたスピードが出せる筈がない。
首の後ろにあった『コ』の字型の部分・・・何かをマウントしておくためのものだろう・・・をひっ掴むと手前に引きつつ、背中に右の前蹴りを叩き込んだ。
出来ない逆上がりを練習している子供のようにひっくりかえるビルド・アーム。
無造作に踏みつけると何かがショートしたのだろう、煙が立ち昇り緊急脱出した操縦者が慌てて飛び出し、必死の形相で駆けていった。
今の奴等が再び現れる可能性は正直言って解らない。
ただ、頼んでもいない『歩ヒョウ』が突然現れたという事実は奴等に対する十分な精神的圧力になるだろう。
今後の事を考えながら八雲道場を振り返ると、三階の窓から身を乗り出している八雲さん・・・後ろにはハルがいた・・・が見えた。
しかも、もの凄い笑顔。
俺はややこしい事を考えることを止めた。



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