星乱拳客伝 外伝 −鋼の記憶−

星乱拳客伝 外伝 −鋼の記憶− 第6巻



転の転章

八雲道場の練習時間が終わるのが午後8時。
その後、掃除と後片付けで30分から1時間。
だいたい午後9時から10時までの1時間が俺達の練習時間となっていた。
須田くん、アンドリューくん、俺、ハルの四人に八雲さんが加わる事がある。
別に何をすると決めている訳じゃないから、その時の雰囲気で、ただ話をして1時間という日もあれば、防具を付けての打ち合いになる場合もある。
毎日の日課となった練習の後、いつもならシャワーを浴びそれぞれの時間を過ごす。
しかし、その日・・・八雲さんと話をした翌日・・・は違っていた。

「榊くん、やるよ」

八雲さんは小さく耳うちすると、階段を上っていった。 昨日の話と関係しているのだろうと思った俺は、少し遅れて八雲さんの後を追った。
二階の道場から三階へ、そして更に上へ・・・
屋上の鉄扉をギィと音を立てながら開けると、

「静かに開けんか、静かに」

近くにいた八雲さんがやってきた。
すいません、と言いながら今度はゆっくり扉を閉める。
他の人・・・特に須田くんとアンドリューくん・・・には知られたくないんだろう。
しかし、なんで知られちゃいけないんだ。
本当に知られちゃいけない事なら部外者であるべき俺なんかに教えていい筈がない。

「榊くん、これから『訓練』を始めるが、一つ約束してもらいたいことがある」
「簡単なことだ。この『訓練』の事は誰にも言わないと約束してくれればそれでいい」

俺の問いを先読みした八雲さんが続ける。

「これから教える『技術』は、須田くんやアンドリューくんには教えないつもりの『技術』でね」
「彼等は良いものを持っている、筋もいいし練習熱心だ・・・しかし、彼等は私から見ると『まっすぐ』すぎる」
「いや、失敬。榊くんが『曲がってる』と言っている訳じゃないんだよ」

それならば解らないでもない。
昨日の八雲さんの様子、あれは自分に習得した『技術』を引き継ぐ人間を見つけたからではなかったか。
自分が身に付けた『技術』を『ヒョウ師』である俺に託そうとしたのではないのか。

「おっしゃる事は解るような気がします」

俺は言った。

「では、そういうことで」

「はい」

そして『訓練』は始まった。



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