星乱拳客伝 外伝 −鋼の記憶−

星乱拳客伝 外伝 −鋼の記憶− 第6巻



承の承章

初めは『妙な』感覚としか言えないような代物であった。
八雲さんと初めて対したのは、最初に道場に案内されたその日であった。
真新しい道着はごわごわして着ごこちが悪かったが、何かを始める時独特の緊張感を呼び起こした。
道着に着替えた俺とハルは再び道場に戻った。

「どっちからでもいいぞ」

既に着替えを終えていた八雲さんが待っていた。
その横には茜さん。少し離れたところに須田くんとアンドリューくんがことの成り行きを見守っている。
後で聞いた話だが、八雲さんが実際に手合わせすることは最近ではほとんどないとのことであった。
その場の妙な雰囲気はそのせいもあったのかもしれない。

「オレからお願いします」

迷っていると・・・といっても数秒ではあったが・・・横にいるハルが珍しく自分から進んで申しでた。

「軽くいこう、軽くね」

言いながら体をほぐしつつ八雲さんはハルを道場の中心へと導いた。
体操競技で使う床に近い・・・それよりは硬めだが・・・クッション性に優れた床には二本の白い線が平行に引かれており、そのまわりには白い大きな円があった。
両者が・・・俺からみて左がハル、右が八雲さん・・・白い線のところに立ち一礼した。

「3分でいいね」

八雲さんの問いにハルは肯いた。
では、八雲さんは横の茜さんに達に軽く肯いた。

「互いに礼」

須田くんの声が道場に響くと、体をほぐしていた八雲さんとハルがお互いに向き会い一礼した。

「構え」

八雲さんの構えは、ごく浅く腰を落し手は胸の高さ、平行に近い左前構えであった。
対するハルはスタンダードなキックボクシングスタイルであった。

「始め」

次の瞬間、ハルは疾った。



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