星乱拳客伝 外伝 −鋼の記憶−
起の承章
事の初めは、半年ほど前の話だ。
俺達はその頃、コロニー『美影(ビエイ)』にいた。
このコロニーはカジノやエンターテイメントを見せる劇場などが主な産業である、いわゆるリゾートコロニーであった。
このコロニーの最大の特徴はその名を見ればわかるように『夜』しかないという事である。
密閉型のコロニーは、その回転軸の中心に人工の太陽である発光物があるのが普通であるが、このコロニーにはそれが無い。
噂では、コロニーができあがってしまってから、人工太陽を入れ忘れた事に気付いた為、しかたなく『昼』のないコロニーになったのだと言われているが、もちろんただの噂話だ。
実際は、人工太陽となるべき発光物へ供給すべきエネルギーを他の施設へ供給した場合のコロニー全体のエネルギー消費率を調査するためらしい。
なんでも学者の計算によると、他の密閉型コロニーの60%ほどのエネルギー消費率になる筈らしい。
このコロニーの税金が安いのは案外、そこに原因があるのかもしれない。
話が逸れちまったが、俺達・・・俺、榊 藤十郎(さかき とうじゅうろう)。もう一人はハルっていう小僧だ・・・は、その頃、コロニー『美影』にあるホテル『メトロポリス』でバンサーをしていた。
バンサーってのは日々のごたごたを片付けて行く、まあ用心坊みたいなもんだ。
さっきも言ったが、このコロニーはリゾートコロニーだ。
しかも、そのメインはカジノやエンターテイメント。
当然、トラブルは日常茶飯事ってことになる。
そこで、俺達の出番となる訳だ。
世界一物騒かつ世界一安全なコロニー。
それがコロニー『美影』の正体だ。
そんな場所だから、俺達のような人間を常に募集している。
ほとんどの場合、クライアントの用意した試験官・・・たいては大男だ・・・を安全かつ迅速に確保できれば、寝床には苦労しないですむ。
そのトラブルは、俺達が勤め初めて一ヶ月ほどたったある日に起こった些細な、ほんの些細な出来事だった。
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