星乱拳客伝 外伝 −鋼の記憶−

星乱拳客伝 外伝 −鋼の記憶− 第5巻



結の起章

カラカラカラカラ。
乾いた音を立てつつ視界が闇で覆われてゆく。
俺は静かに目を閉じる。
カラカラッ。
濃密な闇をまぶたの向こうに感じる。
だが、この闇に不安は無い。
暖かい闇ってとこだろうか、お腹ん中の赤ん坊の気持ちはきっとこんな感じだろう。
態勢は全身マッサージの機械に浅く座った状態に近い。
手は腹の前で緩く組んでいる。
そろそろ、行くか。
自分と『歩ヒョウ』=『レン』に言い聞かせるように、
下腹・・・いわゆる丹田あたり・・・に力を入れる。
と不意に風景が浮かびあがる。
これも巧く説明できないが、夜明けの風景を撮影したVTRを早回ししたみたいな感じだろう。
もちろん目は閉じたままだ。
おかしなもんだが見えるんだからしょうがない。
資材の山の横でぽかんと口を開けたままのハル。
よっぽどびっくりしたのか、さっきのまま固まっている。
後で説明してやらなきゃな。
それから三馬鹿ビルド・アームもやっと気付いたみたいだ。
あきらかに動揺している。
動揺している巨大メカってのも変なもんだ。
「てめぇ。汚ぇぞ」
人間相手にビルド・アームで凄んでた・・・しかも三台・・・やつの台詞とは思えない言葉を吐いちゃうやつは例のおデブちゃんだ。
「ヤバいっすよ」
向かって右側のビルド・アームのスピーカーから気弱そうな声。
きっと下っぱだろう。
「いくら『歩ヒョウ』でも、こっちは3:1だぞ。負けるわけねぇ」
何か言ってやろうと思ったんだが、
奴等が『光信』・・・『歩ヒョウ』の体を光らせて通信する。大昔のモールス信号みたいなもんだ・・・を理解できるとは思えない。
しかたないので『おいでおいで』をしてやった。
「なめやがって」
これも、おデブちゃん。
「いけ。野郎ども」
この一言がいけなかったね。



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