星乱拳客伝 外伝 −鋼の記憶−
転 章
ひんやりと冷たい四角い箱。
『ヒツ』と呼ばれているものだ。
大きさは家庭用の冷蔵庫くらいだろうか。
棺桶って言う奴もいるが・・・
開け放たれた車の後部ハッチに現れた『ヒツ』に俺は命令を与えた。
・・・いや、正確には命令を与えた訳じゃない。
まぶしい時には目を細め、寒い時には体が震える。
そんな反応に近い命令だ。
言葉にすると『そこへ行け』ってところだろうが、いまいちしっくりこない。
『ヒツ』に対してそう思ったと思ってくれ。
『ヒツ』は当然のように・・・当然だが・・・滑るように車から俺の示した位置へ移動した。
ビルド・アームの奴等はまだ気付いていないようだ。
よし、なんて都合がいいんだろう。
俺は次の命令を出した。
次の命令は更に説明しずらい。
『ある』形態を思い浮かべながら『いくぞ』とか『やるぞ』とかそんな風に思った訳だ。
そうすることによって『ヒツ』は『あるもの』へと変じる。
まるで巨大な『からくり』のように。
カラカラカラカラ・・・・・・
乾いた音をたてつつ。
カラカラカラカラ・・・・・・
その所有者である『ヒョウ師』の意志に従い。
カラカラカラカラ・・・・・・
巨大な鋼の巨人『歩ヒョウ』へと。
カラカラ・・・カラッ。
変じるのである。
「兄貴ぃ」
資材の山を抜けてきたのだろうハルがこっちを見て目をまるくしていた。
「榊(さかき)の兄貴・・・あんた・・・まさか」
俺の名は『榊 藤十郎(さかき とうじゅうろう)』、『ヒョウ師』だ。
そして目の前で片膝を付き俺を待つ巨人こそ俺の『歩ヒョウ』、『レン』。
ぽかんと口を開けているハルに『にいっ』と笑いかけ俺は『歩ヒョウ』=『レン』に収まった。
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