星乱拳客伝 外伝 −鋼の記憶−

星乱拳客伝 外伝 −鋼の記憶− 第5巻



承の承章

「ハル」
俺は後ろを見ずに後ろにいるはずの小僧の名を呼んだ。
「兄貴ぃ」
よく『はずす』奴だが、ここ一番で『はずす』ことがないのが唯一のいいところだ。
しかし、いまにも泣きそうな声音は何とかしなきゃな。
そんな事を考えていると後ろからハルがやってきて俺に例のモノを手渡し、俺から2メートルほど左の位置に立った。
ちくしょう。わかってやがる。
俺は渡されたそいつを左右の手に装着しながら、
「6:4ってとこだな」
ハルに言った。
相手の6割を俺、4割をハルが担当するってことだ。
もちろん顔は正面を向いたままだ。
「了解」
ハルの声がどことなくしゃんとしているのは気のせいじゃない。
二人に増えたこっちの人数を逃がすまいと向こうが展開を始めたからだ。
「おとなしくしててくれたほうが楽なんだがな・・・」
おとなしく『しなかった』ことに対する喜びを隠さず男が最後の命令を出した。
「やれ」
その瞬間、俺達も走った。
俺は右に、ハルは左に。
ハルの得物は長棒だ。
2メートル弱の棒を操るハルの棒術には俺もかなわない。
奴には内緒の話だが。
三歩で全力疾走に移ったハルがまるで生物のように長棒を操るさまは舞いを舞うようだ。
その手元からするすると伸びた・・・伸びたようにしか見えない・・・棒が相手の男の胸元打つや男はマンガのようにすっ飛んだ。
ありゃ肋骨が何本かいってるな。
ハルに先手を許した俺だが、得物の違いだ。
いたしかたない。
俺がハルから渡された得物は手甲だ。
鋼鉄製のグローブと思ってくれればいい。
5本の指から肘まで軽ハイブリッド鋼の装甲板で覆うものだ。
重火器とはいかないまでも、ナイフや小火器の弾くらいなら通さない。
それに手の自由度はかなりのものがある。
俺にとっちゃなんとも都合のいいオモチャだ。
四歩目で敵と遭遇。
前方に二人だ。
向かって左の奴の方が半歩近い。
俺は進行方向を少し左へ修正し同時に左手を上げた。
もちろん挨拶したわけじゃない。
敵の右手に握られた得物の30センチほどの棒・・・特殊警棒みたいなやつだ・・・を掴む為だ。
かなり大振りな一撃の勢いを殺さず、そのまま右下方へ引き流しながら右掌を前方に置いた。
打った訳じゃない、ただ置いただけだ。
お互いの相対速度プラス空振りの勢いをアゴで受けた男はのけぞりつつ倒れた。
軽いムチウチになっているかもしれないが知ったこっちゃない。
仰向けに倒れた仲間に気をとられたもう一人を右の前蹴りで蹴り上げると、そいつは腹を押さえながらごろごろと地面を転がっていった。
当面の敵を倒した俺はハルの方を見ると三人目を仕留めたところだった。
内心ヤバイと思ったね。
6(俺):4(ハル)どころか5:5以下じゃ、『兄貴』としてこれからなにかと面倒だ。
そんな事を考えていたときそれが聞こえてきた。
無駄にでかい機械の駆動音。
連続した地響き。
『ビルド・アーム』だ。



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