星乱拳客伝 外伝 −鋼の記憶−

星乱拳客伝 外伝 −鋼の記憶− 第5巻



起 章

頭が痛い。
原因は昨晩の酒のせいじゃなく・・・原因の一端を担っちゃいるが・・・耳もとでがなりたてているヤツのせいだ。
誰かが俺の体を揺すりながら何か言っている。
そいつの言葉の約半分は『起きろ』という単語だった。
しかし『起きろ』と言われて、はいそうですかと起きられるもんじゃない。
俺は眠いのだ。
「うるせぇ」
と言ったつもりだったがきっと『にゃがぁ』とか『のぁっ』とか言ったに違いない。
すると俺の体を揺すっていた野郎が「忘れたのか」とかなんとか言いやがった。
忘れた・・・?
そう言えば何か忘れているような気がしないでもない。
なんだろう。
しかし、まだ眠い。
忘れていることは起きてから考えればいいことだ。
だから俺は、
「後にしろ」
と言ったつもりだったがきっとこれも『にゃがががっ』とか言ったに違いない。
すると男が「早くしないと奴等が・・・」とか言いやがった。
眠っているにもかかわらずここまで聞き取れるとは我ながら素晴らしいと思ったのだが、
実際には目覚めつつある事はとっくに解っていた。
もう少し寝たふりを決め込んでやろうかとも思ったが、男の声があまりにも悲壮だったんでしかたなく薄く目を開けた。
見慣れたトレーラーハウス・・・といっても大き目のバンを改造したものだ・・・の低い天井。
そして見慣れた小僧の顔。
「兄貴ィ」
突き刺さるような寝起きの俺の視線を受けたハル(小僧の名前だ)は泣き出しそうな顔をしていた。
寝起きの俺に恐怖したんじゃなく俺が起きたことに歓喜したのだ。
間違えないように。
大きく一つ伸びをした後、むくりと起き上がった俺は車の進路を聞いた。
「とりあえず・・・」
ハルはこのコロニーのメインストリートをぐるぐる周回するコースをセットしたようだ。
最後に「後ろに奴等がいるんだよ」っていう言葉がおまけで付いてきた。
その時には『奴等』の正体が何者だか思いだしていた。
昨日の夜、たちの悪そうな奴等に因縁をつけられ2、3人ぶん殴ったような気がする。
どうやって調べたのか知らねぇが、追いかけてくるのはたぶんその『奴等』のことだろう。
この半年、おとなしくしていたせいか昨晩はちょっとばかしはめを外しすぎたようだ。
まあ、いまさらごちゃごちゃ言っても始まらない。
「コンピュータ。現在地とルートを示した地図をだせ」
言いながら自動操縦中の運転席に潜り込む。
運転席のメインディスプレイに呼び出した地図を睨みながら、しばし考える。。。
「コンピュータ。周辺を拡大」
助手席に座ったハルが不安そうに覗き込んでくる。
ゆっくりズームする地図の縮尺を固定すると、この先のT字路を右へ曲がった場所を指で叩いた。
「コンピュータ。この施設は何だ」
ディスプレイ上にサブウィンドウが開くと施設の詳細が表示された。
こいつは・・・
コロニーゲート付近の寂れた資材置場だ。
こいつはいい。
「コンピュータ。コース変更、A3ブロック28エリアの資材置場へ向かへ」
俺は不安げなハルの頭をはたいて運転席を立った。
なぜ?
そりゃもちろん『準備』するためさ。



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