星乱拳客伝 外伝 −鋼の記憶−

星乱拳客伝 外伝 −鋼の記憶− 第2巻



転の転章 裏(小桜2)

俺は車で走っている。
上泉家にはイトーの手下はいなかった。
一応説明しておくと、イトーの奴は上泉さんのとこへ来たときから『ご一行様』だった。
手下は5人。
その5人のうちヒョウ師は3人。残りの2人は普通の人だ。
地元じゃこいつらとグルで相当暴れてたらしい。
親は上泉さんのとこへ預けりゃ、ちっとはマトモになるだろうと思ったんだろうが、『お山の大将』が『お山』ごとお引越しちまったもんで、よりいっそうタチが悪くなっちまったって感じだ。
ま、性根の腐った奴はそんなもんだ。
ファミレスはさっき確認したし、居酒屋はまだ開いてない。
で今向かってるのは、イトーご一行様がよく集まってる貸し倉庫だ。
この貸し倉庫ってのはイトーが地元から大量に持ち込んだ歩ヒョウの武具やオモチャの類が保管してある場所で、非常に評判のよろしくない場所である。
港付近の倉庫街。
たまに通るのはでかいトレーラー。
よろしくない事をするには、よろしい場所だなこりゃ。
俺は「23」と書かれた巨大なシャッターの前に車を止め、シャッターの横にある人間サイズのドアノブをひねった。
「ジャマするよー」
言いながらドアを開けると中に人の気配がした。
ビンゴ!
幾つかの視線が探るようにこちらに向けられる。
「ザク2じゃねぇか。。。なんの用事だ、あぁ?」
手下その1が凄むのと、手下その2とその3が怪しい動きをするのは、ほぼ同時だった。
「用事ってほどのもんじゃねぇんだがな。。。」
そう言って、手下その2とその3が隠しているモノの方へ向かう。
「用事がねぇんなら、とっとと失せろ踏み潰すぞ」
がらがらがらがら・・・
倉庫に響くのは歩ヒョウが組みあがる音だ。
手下その4とその5のものであろう2体の歩ヒョウが立ち上がる。
「おいおい穏やかじゃねぇな」
言いながら俺は、急加速する。
ドカっ、ぼこっ
手下その2とその3をぶっ飛ばすと、コンクリートの床に横たわった男がコンテナの陰に見えた。
しかもかなりダメージを負っている。
こりゃホントに穏やかじゃない。
っと目の端に黒い影を確認した俺は前方へ飛ぶ。
がじゃん
と振り下ろされたのは手下その4・・・だかその5だかの『歩ヒョウ』の拳だった。
「このまま帰す訳にゃいかなくなっちまったな、ヤッちまえ!」
手下その1の命令を待つまでもなく2体の歩ヒョウは戦闘態勢。
そしてそのまま動けなくなってしまったのは、突然現れた見たことの無い『歩ヒョウ』のせいだろう。
その『歩ヒョウ』は黒?紫?深紅?
見ようによっては、どのどの色にも見えた。
俺は開いた背中から『歩ヒョウ』=『影法師』に乗り込むと、右足を一歩踏み込み右の貫手を打ち込み、振り返りざま右足を跳ね上げる。
ギシャッ
  ガシッ
攻撃には時間差があったが倒れるのは、
ガガジャン
ほぼ同時だった。
「てめぇ。。。使えねぇんじゃねえのか?。。。騙しやがって!」
騙したつもりはねぇが、上泉さんとこで『歩ヒョウ』を纏わないようにしている。
勘違いするのは勝手だ。
手下その1が叫びながら、自分も『歩ヒョウ』を組み上げる。
ガラガラガっ。。。がしゃっっ
「きたねぇぞこのヤロウ!」
組み上がる前にぶっ倒すのも勝手だ。
こっちはこっちの都合ってもんがある。
「覚えてろよこのヤロウ!」
お決まりの台詞を吐きながら、手下その1〜5は負傷した仲間を引き摺りつつお決まりの体勢で倉庫を出て行った。
ふぅ、終わった終わった。
俺は纏いを解き、倒れている男の方へ向かった。
あぁ気持ちわりぃ。
俺は『歩ヒョウ』を纏うと酔う体質で長時間闘えない。
こんなこと格好悪くて他人に言えるかっての。



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