星乱拳客伝 外伝 −鋼の記憶−

星乱拳客伝 外伝 −鋼の記憶− 第1巻



結の結章

サクラが咲いている。
ソメイヨシノという種類らしい、そのサクラは23世紀になっても派手に咲いて、派手に散る。
深夜。
壊れたアジトの隣にある公園だった。
そこにいたのは俺とナオと小さい女だ。
いや、より正確に言うなら、俺とナオと小さい女と碧い『歩ヒョウ』だ。
碧い巨人は舞い散るサクラを背に座している。
なんとも『絵』になる。
ゴーチェとの一件は、不出来な弟の所業を聞きつけた兄のフランツが単身乗り込んできて、その場を取り成した。
もともとフランツとナオが親友だったらしく、その辺もヤヤコシイ原因だったようだ。
そのおかげって訳でもないんだろうが、あれだけ大暴れしたにもかかわらず、俺達は形式的な事情聴取だけで開放された。
そして今、まったり酒なんぞ飲んでいられるってありがたい状況になってる。
「こいつカッケーなぁ」
俺の意識は、その一件とは既に違うほうへ向かっている。
「いいだろ?」
碧い『歩ヒョウ』は三つの目で、自分を創った纏職人と『ヒョウ師』のやりとりを見下ろしている。
小さい女はナオの膝の上で夢の中だ。
時折、にぃっと笑うところを見るといい夢らしい。
「こいつイカシてるなぁ」
何とかコイツを俺のものにしてぇ
「そうか?そうだろ?」
まんざらでもなさそうなナオを口説き落とす方法ってなんだ?
ストレートに『クレ』っていっちまいそうだが、それじゃダメな気もするし。。。
「こいつは、俺が独学でこしらえたもんだ。。。なにがあってもしらねぇぞ」
ナオが自分のグラスに酒を継ぎ足す。
「気に入ったなら持ってけ、名は『蓮(レン)』だ」
俺達はグラスを合わせた。
「大事に使わせてもらうよ」
ゴクリと酒が喉を下って行く。
「あぁせいぜいこき使ってくれ」
ああ、いい夜だなぁ
「そうだな、いい夜だ」
知らないうちに酔っちまったようだ、思ったことを口にしていたらしい。
「へへっ」
まっいいか、いい夜には違いない。
サクラの淡い色が俺のグラスに舞い降り、俺は碧い『歩ヒョウ』に向き直った。
(よろしくな)
それが『蓮(レン)』との出会いであった。




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