星乱拳客伝 外伝 −鋼の記憶−
承の結章
それはしごく単純な話だった。
「ゴーチェ」が「サエ」に惚れて、「サエ」は「ナオさん」に惚れてる。
三角関係ってやつだ。
ただし、ゴーチェの背後が面倒ってだけの話。
ゴーチェの父親の建設会社は地元の超優良企業で今ではゴーチェの兄が事実上引き継いだ形になっている。
で、この兄貴ってのは仕事もできて、実際悪い奴じゃないらしい。
そこがまたやっかいで、人望も厚い兄貴を気遣っている奴とか、不出来な弟を利用してやろうって奴とかが、ゴーチェの周りにくっついてるって話だ。
「面倒だな」
「面倒だろ?」
「メンドーだろ?」
面倒の主要人物の二人が他人事のようにつぶやくのをみて、もう一人の主要人物が少し哀れになった。
(ゴーチェ・アングル。。。はぁ)
「面倒だな」
っと、ルルルルッっと電話が鳴った。
面倒な話をしていたせいなのか、面倒そうに電話をとり、面倒そうな声で電話に出た。
「ナオだ」
ナオは電話口を押さえると小声で「面倒なヤツからだ」と俺達に伝えた。
安心なアジトも安全ではないらしい。
「あぁ?」
不意にナオの口調が変わった。
「てめぇ。。。ただじゃすまねぇぞ」
受話器を耳にあてたまま、こっちへ向き直ったナオは違う人物だった。
「タケがゴーチェに捕まってる」
仲間が誘拐されたらしい。
「今からぶっ飛ばしに行くから、首洗って待ってろ」
ナオが電話口に怒鳴りつけると、アジトの奥の部屋がガチャリと開いた。
「わざわざ来てもらわなくてもケッコーだよ」
ひゃはは、とイヤな笑いで締めくくったのは、噂の男『ゴーチェ・アングル』だった。
仲間を待ち伏せして捕まえたのはいいものの、俺達がやってきて出られなくなったってとこだろう、ゴーチェの仲間に押さえられてるタケってヤツにはたいしたダメージないみたいだ。
「まったく、シツコイ野郎だな」
仲間の様子に安心したのかトモは落ち着きを取り戻していた。
「一所懸命なだけだよボクはね」
イヤな笑いを顔面にへばりつけたままイヤな台詞を吐くゴーチェ。
なんだかなぁ
「あのさぁー」
小さい女がよく通る声で割って入った。
「そういうのアリエナイから、消えてくんない?」
怖いねぇ女ってーのは。
「話し合おうよねっ?」
可哀想なゴーチェは可哀想に声を裏返らせ可哀想に浮きまくっていた。
「わりぃことは言わねぇから、手引きなよゴーチェ」
「あんたほどのヒトなら他にもいくらで女はいるだろうに。。。」
ナオがそこまで言ったとき、
「うるへー」
ゴーチェが捕まえた無抵抗のヒロの顔面にパンチを入れた。
ぱちん
情けない音は、なさけない鼻血となって、なさけなくその場をしらけさせた。
もちろんタケにダメージはない。
敵味方、ゴーチェ以外の人間すべてのやる気は失せていた。
「野郎どもやっちまえ!」
ゴーチェの命令がやる気のないアジトに響く。
と、
バリバリっ
どうやら、外にいた奴らのやる気はまだ失せていなかったらしい。
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