星乱拳客伝 外伝 −鋼の記憶−

星乱拳客伝 外伝 −鋼の記憶− 第1巻



承の起章

その日も俺は酒場にいた。
遊んでる訳じゃない仕事である。
バンサー
要するに用心棒だ。
酒場で起こる様々な荒事を解決するのが仕事である。
廻国(ジュンコク)している身にはありがたい職業だ。
22:30
この日は早番で後1時間もすれば仕事は終わり。
俺にとっての夜は始まったばっかり。
さて今日はどこへ行こうか。。。って簡単には行かないのがこの世の常だ。
店の入り口に見たことのある男を確認した俺は、あちこちに仕込んである色々なモノの位置を確認した。
「よぉ」
緑の髪の男は軽く右手を上げた。
左手じゃなかったのは、左手には小柄な女がぶら下がっていたからかもしれない。
「こんばんわぁ〜」
左手をぴらぴらさせ満面の笑みで女が「ごあいさつ」をした。
右手ではなかったのは、右手で緑の男にしがみついていたからかもしれない。
「よぉ」
俺は右手を上げて彼等を迎える。
「昨日は迷惑かけちまったな」
カウンターで女がビールを3つ注文しているのを横目で見ながら『ナオさん』は右手を差し出した。
「たいした事じゃねぇよ」
俺は出された右手を右手で握った。
『利き手は空けておくものだ』ってヤツもいるらしいが、そんなメンドウなことやってらんねぇ。
不意に『ナオさん』が身体を寄せてきてボソボソと言い始めた。
「この店は悪い店じゃねぇが、ゴーチェの手が回っちまうとやっかいだ」
「今すぐ店を辞めろ」
俺はそのまま聞き続けた。ここで『なんだってぇ〜』とおっぱじめるほどバカじゃない。
「後始末はこっちでやっとく。。。」
話を続ける『ナオさん』に今度は俺がぼそっと耳打ちしする番だ。
「時間がねぇみたいだ、正面か裏口どっちにする?」
数分前に『ナオさん』がくぐった入り口にゴーチェが見えた。



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