星乱拳客伝 外伝 天道幻夢団

星乱拳客伝 外伝 天道幻夢団 緋色の巻



第6章

いつ、どこでバレたのか。
ジルガは『歩ヒョウ』を走らせながら「仕事」の最初から最後までを頭の中で繰り返してみた。
しかし、危なそうなところは見つからない。
何かの罠、或いはこれが本当の「仕事」・・・
脳裏に浮かぶ『ヒョウ局』局長=天道渡(てんどうわたる)の微笑。

(団長のすることだからな・・・)

天道渡は腹の底の見えない男であった。
悪人という意味ではない。
口の利けない自分を他の団員と同じように扱ってくれる・・・他の団員も只者ではなかったが・・・天道には感謝という言葉以上のものを感じていた。
一人の個人として扱ってくれたのは天道が始めてであった。
耳が聞こえず、口が利けない。
両親ですら壊れ物を扱うように接していた彼にとってそれは一種の衝撃であった。
そして、思ったのである。
・・・これでいいのだ・・・と・・・
励ましの言葉など一言もなかった。
逆にそんな言葉をかけられたら、そうは思わなかっただろう。
もっと深い部分での共感とでも言うべき感覚。
表面的な部分ではまったく異なった団員達に共通している部分・・・
心の奥底に潜む何者かの存在。
日常生活の中でその何者かが、ささやくのである。
「おまえはここにいるべきではない」と、
そして、その何者かが天道に会ってささやいたのである。
「ここがおまえのいるべき場所だ」と・・・
天道と出会ったその日から男は一変した。
その当時、まだ幼かった彼であったが両親を説得し義務教育を終えたら天道の元へ行く覚悟を伝えた。
両親は反対するどころか、わが子の言葉に胸打たれ涙した。
天道のことから過去を振り返っていたジルガであったが不意に立ち止まった。
ハイウェイのジャンクション。
その前で立ち止まり辺りを見回す『歩ヒョウ』。
次の瞬間、その支柱をするすると登りハイウェイの高架下の闇に溶け込んだ。



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