星乱拳客伝 外伝 天道幻夢団

星乱拳客伝 外伝 天道幻夢団 緋色の巻



第2章

妙な感覚であった。
トモちゃんの家族の前に現れた空間はとてつもなく広い筈なのに奇妙な圧迫感があった。
楕円形のアリーナを囲むように作られたすり鉢状の観客席。
その最前列から二十数列目にトモちゃんの家族はいた。

「すごいねぇ」

周りを見回してひっくり返りそうになるのを父親に支えてもらうトモちゃん。

「ねぇ、すごいねぇ」

観客席の最上段。
そこからは、別のモノが続いていた。
強化ガラスであろうか、暗闇と星々のまたたきが半透明のその向こうにあった。
見ようによってはキリスト教の教会に見られる色とりどりのステンドグラスに見えなくもない。
よく見れば、様々な動物や昆虫が見て取れるその芸術品は頂点へ向かって収束していた。
恐ろしく巨大なクリスタルのドーム。
それは人が認識できる圧倒的質量であり、威圧感であった。
すごいすごいと騒ぐトモちゃんを席に着かせた頃には、周りの席も徐々に埋まりつつあった。
トモちゃんはニコニコで入り口の売店で買ったポップコーンをほおばりながら、椅子に座って両足をぶらんぶらんしている。

「おっゴキゲンだな」

父親は、このニコニコがいとも簡単に豪快な泣き顔に変わる事を知ってはいたが、そう言わずにはいられなかった。
そうこうするうちに、

「これより数分で天道幻夢団の公演を始めさせていただきます」
「お席をお離れの方は、お戻りくださいますようお願い申し上げます」

会場のアナウンスであった。

「いよいよ始まるわよ」

母親の言葉にトモちゃんは、はじまるよをいろんなバリエーションで連呼し始める。

「だいぶテンション上がってるな」

そういう自分もまた興奮状態になりつつあることを感じながら父親はトモちゃんの頭を撫でた。



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