星乱拳客伝 外伝 天道幻夢団

星乱拳客伝 外伝 天道幻夢団 藍色の巻



第17章

星空であった。
降るような星々の中をゆっくりと進む巨大な船があった。
名は『幻夢』と言う。
その船首部分に近い部屋であった。
ボルドーワインの深い赤色の絨毯に渋い木目の家具、明かりは冷たい蛍光灯ではなく暖かい白熱灯の柔らかい光であった。
光量の少ない部屋ではあったが、その行き過ぎてはいない程度の豪華な調度品からは、この部屋の主を想像することができた。

「では、報告を聞きましょうか」

そこか定位置なのであろう、進行方向の窓に向けられた一人がけのソファから男の声がした。
天道渡(てんどうわたる)である。

「はい」

小さくはあったが、よく通る声で少女は応えた。
緊張しているのであろう、直立不動の姿勢は背中を向けてソファに座った天道に対するものであった。

「そんなに堅くならないで」

そう言ってソファから立ちあがった天道に、ますます緊張の度合を高めながら少女は硬直していた。
笑いながら、座る事を勧めた天道は少女の向かい側のソファに移動した。

「さて、頼んでおいた仕事は片付いているということですが、詳細はお願いしていた本人から聞く事にしているのでね」
「話してもらえるかな」

こくりと肯いた少女は話し始めた。

「X月X日XX時XX分ごろ、指示された場所でターゲットの乗った車を行動不能にした後、渡されたアタッシュケースを車中に置いてきました」
「その際・・・」

言いよどむ少女。

「その際、ターゲットの護衛ビルドアームと戦闘状態になったそうだね」

薄い笑いを浮かべたままの天道が言う。

「はい・・・戦闘状態になり護衛ビルドアーム二台を行動不能にしました」

視線を落し答えた少女に天道は、

「速やかな行動だったと聞いています。その事に関してはクライアント側からの苦情の対象とはなりませんよ」

その言葉に思い詰めたような少女は

「はい、それは・・・」

まだ言い難い事でもあるのか、少女は下を向いたままである。

「他に何か問題でも?」

辛抱強く天道は尋ねる。

「はい・・・実は、見られてしまいました」

極秘でという依頼を誰かに見られたとあっては、天道の信頼問題にもなりかねない事である。

「ほぅ・・・それは、困りましたね」

天道は腕を組んで視線を上方へ漂わせた。
『考え中』のポーズらしい。
少女は消え入りそうな声で、すいませんすいませんと繰り返すばかりである。

「で、誰に見られたか覚えていますか、人数や風体・・・写真とかは大丈夫ですか?」

上着の胸ポケットから携帯端末を取り出して情報の検索を始めた天道。

「覚えています。小学生くらいの男の子でした」

ささやくような声だった。

「見られていると気付いたと同時に、ターゲットと接触してしまって・・・結局、依頼を優先してしまいました」

そうですか、と天道は携帯端末をポケットにしまいながら、

「で、その男の子、そのまま帰したのですか」

静かな問いに対する答えは、少女が首を横に振った後に続いた。

「いえ。依頼が片付いた後、男の子に近づき口止めしてあるので大丈夫だと思います」

その言葉に目を細めた天道。

「思います、とはどういう意味ですか」

優しく、静かな問いであった。

「はい、こうしてお願いしてあります」

少女は右手の人指し指を立てて顔の前にもってきた。

「『シー』ってしたんですけど・・・ダメですか」



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