星乱拳客伝 外伝 天道幻夢団

星乱拳客伝 外伝 天道幻夢団 藍色の巻



第12章

学校と公園に挟まれた道の比較的急なカーブ付近でのことであった。
法定速度の2倍ほどのスピードで疾走するブルコフの車とその前を行く大型車両は不意に前方に現れた巨大な物体に接触した。
もっとも、後方を走っていたブルコフの車は前方の大型車両をかすめてガードレールに激突したのであるが・・・
轟音と煙が水槽に落した一滴の墨汁のように広がり、拡散し、消えた。
そこには、巨大な人型『歩ヒョウ』と横倒しになった大型車両、その積荷であろうコンテナが二つ。
少し離れた場所にブルコフの乗用車。
付け加えるなら『歩ヒョウ』のかなり後方にマモルくんが倒れていた。
人気のない夜の道路はまるでゲームの中の世界であった。
そんな現実と切り離されたような空間を『歩ヒョウ』が動いた。
ブルコフの乗用車の方へ・・・
いや、動きかけたと言ったほうがいいだろう。
『歩ヒョウ』が動いた直後に路上に転がった二つのコンテナが静寂を破って動き出したのである。
それは、ビルド・アームであった。
一辺が2メートル足らずのコンテナは二ヶ月ほど前に発売されたボディガードシリーズの『SS(シークレットサービス)』モデルである。
このビルド・アームの特徴はコンテナ形態から人型への変形システムであった。
発売前には一部のマニアに向けた変形ギミック付きの高価なオモチャであろうという評判であったが、
人型形態での機動力の高さと、このクラスではトップクラスのパワー、そしてボディ剛性の高さは他のビルド・アームに引けを取っていないという事実はこのビルド・アームが単なるオモチャでないことの証明であった。
更に、コンテナ形態での容積率が通常のビルド・アームの半分以下、すなわちコンテナ形態であれば一台分のスペースに二台のビルド・アームが搭載可能であるということから警備会社や一部の高所得者層に受けた。
今、路上で起動しつつあるビルド・アームはブルコフを警護するためのものであろう。
立ちあがったその姿は『人』というより熊のヌイグルミのように見えた。
どことなくユーモラスな二台のビルド・アームがほぼ同時に起動した。
そして、走り出した・・・『歩ヒョウ』の方へ。
確認や警告などは一切なかった。



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