星乱拳客伝 外伝 天道幻夢団

星乱拳客伝 外伝 天道幻夢団 藍色の巻



第11章

それは『人』であった。
巨大な人型。
マモルくんは、それが何か知っていた。
それは『歩ヒョウ』であった。
『ヒョウ師』の操る巨大な人型の甲冑である。
しかし、こんな時間、こんな場所で『歩ヒョウ』を目撃することになろうとは思ってもいなかった。
一切の音を発しないまま『藍色』の巨人はマモルくんに背を向けたまま学校脇の道路に立った。
その背中には鮮やかな蝶が描かれていた。
日常に紛れ込んだ異形の者。
いや・・・夜、人通りのない学校脇の道路ではマモルくんこそが『日常』という異物であった。

こん からららららっ

街路樹の影に隠れようと動いた時、マモルくんは空缶を蹴飛ばしてしまった。
小さな音ではあったが静寂を破るには十分な音量であった。

(やばい・・・)

目前の『歩ヒョウ』に気付かれた。 そう思っただけでマモルくんの頭の中は真っ白になった。
胸が苦しい。
まるで心臓が喉まで上がってきているかのようだ。
そのまま、どれくらいの時間が過ぎただろう。

(気付いてない?)

マモルくんには10分ほどにも感じられただろうが、実際は10秒ほどであったその時間。
背を向けたままの『歩ヒョウ』を街路樹の影から覗き見る。

(・・・?)

しかし、『歩ヒョウ』の首はゆっくりとマモルくんの前方に転がる空缶の方を向いた。
そして・・・

(気付いてる)

『歩ヒョウ』の首がゆっくりと動いている。
マモルくんのいる方へ・・・
ぎりぎりと無音の圧力がマモルくんの心臓を絞め上げる。

(逃げなきゃ・・・)

マモルくんの心が逃走を命じている。
しかし、身体が硬直して動けない。
そして・・・
気付いた時には『歩ヒョウ』の顔はマモルくんのほうを向いていた。
目の無い『歩ヒョウ』から痛いほどの視線を感じつつマモルくんは気を失った。

どガシャン

カサバルト・ブルコフの車が藍色の『歩ヒョウ』に突っ込んだのは、その直後であった。



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