星乱拳客伝 外伝 天道幻夢団

星乱拳客伝 外伝 天道幻夢団 藍色の巻



第8章

「紳士淑女の皆様、ようこそ『天道幻夢座』へ」

コロニー『バイオレット4』のA−15ブロックにあるバイオレットアリーナの客席にマモルくんは家族と共にいた。

「今宵、我が『天道幻夢座』がお見せする夢幻の世界をお楽しみください」

円形の舞台の中央でシルクハットに青いジャケット、赤い蝶ネクタイの天道がマイクを握っている。
それは、スリルと幻影の世界であった。
煌びやかな衣装、色とりどりの照明、腹の底に響く大音響。
それに観客の歓声、どよめき、拍手が重なって一つの『場』を形成している。
可憐な少女が天空を舞う空中ブランコ。
球や棒を機械の正確さで操るジャグラー。
両手両足を固定された美女めがけて放たれる短剣は鮮やかに頭上のリンゴを串刺しにした。
2時間。
あっという間であった。

「おもしろかったね」

目を輝かせるマモルくん。

「いや、凄いもんだ」

子供を楽しませてやろうと思っていたのだが、すっかり自分ものめり込んでいた。
テレビやホロで見覚えのあるものばかりではあったが、やはり生の迫力というやつであろうか鳥肌が立った。
今日の天道は、昨日の天道とは違う天道であった。
野生の動物が動物園の動物と同じでは居られないように、天道もまた一般社会ではどこか『違う者』なのであった。
『野生』を捨てられない動物園の動物、自らの獰猛な牙をひた隠し、闇夜に紛れて爪を研ぐ悲しい生物。
その彼等が自らの異分子を開放する場が、今夜のようなステージ上なのではないのか。
だから・・・だから、妖しく、儚く、悲しいのか・・・
盛りあがるマモルくんと妻をやけに遠く感じつつ家族は家路についた。



次章:第9章


(c)General Works