星乱拳客伝 外伝 天道幻夢団

星乱拳客伝 外伝 天道幻夢団 藍色の巻



第5章

コロニーに入る時、簡単な審査をされる場合がある。
海外旅行をする時の入国審査みたいなものと思ってもらおう。
コロニー『バイオレット4』の場合は指定された部屋へ行き、簡単な書類を記入したあと、審査員に提出。
2、3の形式的な質問で終了である。
普段であればこのコロニーに住んでいる者は別枠の部屋が用意されているのだが、この日は違うようであった。
『F−8』
それがこの日の部屋であった。
部屋のドアを開けるといつものように数人が書類を書いていたり、順番待ちの間、ソファに座っていたりという光景があった。
いつもと違っていたのは、そこにいた人々であった。
あきらかにこのコロニーの住人ではない雰囲気。
何がどう違うのかと問われれば答えにくい。
それは、服装であったり、顔つきであったり、身のこなしかたであったり、会話の内容であったり、少しずつの微妙なズレがこの違和感の正体であった。
部屋を見回すと一番左のソファに座った男と目が合った。
お互い軽く頭を下げる。
マモルくんの父親の足は自然とソファの男の方へ向かった。
ここいいですか?どうぞ、というごく普通のやりとりのあと、ソファの男が会話の口火を切った。

「このコロニーにお住まいですか?」

身長は170cmくらい、やせ型。
20代から40代までの何歳でも通じるような男であった。

「ええ、もう3年になりますね。もっとも仕事柄、家にいることは少ないんですが」

「しかし、帰るべき家があるということは幸せなことです」

視線を外した男はこの部屋にいる、少し変わった人達を見回しながら続けた。

「『旅芸人』というものをご存じでしょうか」

えらく古びた言葉であったが、マモルくんの父親はどこかで聞いたことがあった。

「私たちはコロニーを渡り歩く『旅芸人』・・・ようするにサーカスです・・・の一団でしてね」

どうやら、マモルくんの父親は間違えてこの部屋に通されたらしい。

「ここでお会いしたのも何かの縁というやつでしょう。失礼ですが、ご家族は?」

妻と子供が一人、と答えると、笑みを深くして傍らのスーツケースからA4サイズのチラシ・・・マモルくんに見せたものである・・・とチケットを3枚取り出した。

「変わりモノの集まりですが、これでもなかなかの評判なのですよ」



次章:第6章


(c)General Works