星乱拳客伝 外伝 三つ目 廻国編
四の巻
第1章
(おっ!)
焼いたパンとチーズとベーコンとコーヒーの香りが食堂に満ちていた。
「遅せぇから先に始めさせてもらったぜ」
ハンスが厨房から顔をのぞかせて、そう言った。
「オセェヨ ランさん」
アフロの右手には食べかけの少し変ったサンドイッチ(パニーニみたいなもの)が、左手にはホットミルクのマグカップが握られていた。
わりぃわりぃとアフロの頭を軽くつつくと厨房のハンスの方へ向かった。
「器用なもんだなハンスさん」
年季の入ったエプロン姿のハンスは町の定食屋のオヤジのようにみえた。
「だろ?」
にいぃっと笑ったハンスは焼きあがったばかりのパンとコーヒーを差し出した。
「うんめぇぜ」
ウィンクするクマは見たことないが、きっとこんな感じだろう。
蘭丸はあつあつのそいつを一口かじると、本当に美味かった。
「ふんへぇ(うめぇ)」
右手でパンとハイタッチしてからコーヒーを手に取り、小桜の向かいに座った。
「よく眠れた?。。。みたいだね」
既に食事を終えていた小桜は蘭丸の寝癖を見て微笑んでいる。
「ああ、爆睡しぜ」
ハンスのホットサンドを三口目で食べ終わり、熱いコーヒーを口にした。
「あひっ」
アツアツのコーヒーをこぼしそうなところで、ぐらりと船が揺れたものだから大変。
「うっっとととと」
椅子から腰を浮かせた蘭丸は器用にこの難局を乗り切った。
「ほー上手いもんだ」
小桜がパチパチと手を叩く。
「急制動か。。。どうした?」
再び席についた蘭丸。
「きっと監視衛星からの早期警報でしょう」
宇宙は広いが広い故に偶発的な事故も起きる。
そこで長距離移動の安全を確保するためいくつもの航路が設定されている。
20世紀の言葉で言えば幹線道路といったところだろうか。
航路の安全を確保すべく一定距離ごとに監視衛星が置かれ、不意の隕石群など航路と交差する軌道の物体を見つけると近くを航行中の船に警告を発するのである。
船はその警告を元により詳細な座標を特定、回避行動を取る。
今回もそんな回避行動の一つではないかと小桜は言ったのである。
しかし。。。
ぐらり
と再び、今度はさっきと逆方向へ揺れた。
「ちょっと、ややこしい事になるかもしれませんね。。。」
監視衛星からの警告で船が回避行動を取った後、接近する物体が更に衝突コースに修正した場合。。。それはこちらに接近しようという意図がある。
「いくぞ」
立ちあがった蘭丸はアフロの頭をこづいてから食堂を後にした。
(c)General Works