星乱拳客伝 外伝 三つ目 廻国編
四の巻
序章
ごぉるごぉるごぉるごぉる。。。。。。。
低い振動が体の表面を振るわせる。
ここはサルバドール級クルーザー『グリソム』の船室であった。
胎児は母の心音に安らぎを覚えるというが、蘭丸にはその気持ちが良く分った。
るるるるるっるるるるるっるるるるるっ
枕元の電話が赤いLEDを点滅させながら呼んでいる。
「んぁ?」
朦朧とした意識のなかで蘭丸は、そのような事を言った。
「ごはんだよぉー」
取り上げた受話器の向こうでアフロの声が弾んでいる。
「んなぁった」
ぬるま湯につけられた食器の気分はきっとこんな感じだろうと、ゆるい浮遊感を感じながらベッドから立ちあがると、寝る前にカバンから出したままになっているダボダボのパンツに脚を通した。
(シャツは。。。)
一瞬躊躇した蘭丸であったが、そのまま狭い洗面所へ向かった。
ちょろちょろと勢いのない水で顔を洗うと歯ブラシを咥え、鏡と向き合った。
(さえねぇな)
寝癖のついた頭にくしゃっと手を突っ込むとそういう髪型に見えなくもなくなったから世の中あなどれない。
るるるるるっるるるるるっるるるるるっ
(ごはんってなんだろう?)
電話の向こうのアフロのテンションを気にすることなく蘭丸は歯を磨いていた。
(c)General Works