星乱拳客伝 外伝 三つ目 廻国編

星乱拳客伝 外伝 三つ目 廻国編

三の巻


第5章


『もふもふ』の両腕の毛。
小さくひしゃげた頭部。
厚い胸板。
それは緋(あか)い『ゴリラ』の姿であった。

(『ゴリポン』か、なるほどな)

蘭丸は茜の言葉を思い出し苦笑する。
事務所のあるビルの路地に滑り込んだ蘭丸は、隣にいる双葉と並んで茜の歩ヒョウを見つめていた。
お手並み拝見というところである。

太く短い両手の10本の指でアスファルトをぎゅっと掴むと、不意に上体を沈めた。
低い。
陸上短距離スタートの姿勢よりも更に低い態勢であった。
茜の歩ヒョウの出現に動揺したのか動きを止めていたビルドアームが再び動き出す。
と、

バンッ

弾かれたように赤い巨体が地面と平行に跳ねた。

ごっ

空気を引き裂きながら赤い左腕が振られる。

ぎしゃっ

上体を捻りつつ、いわゆるアッパーのような形で赤い左掌がビルドアームの頭部を捕らえた。
この時すでに茜の歩ヒョウの背中とビルドアームの腹部は密着していた。
凄まじい瞬発力である。

ぎしぃ

悲鳴を上げるビルドアームの頭部。
頭部を捕まれたビルドアームが茜の歩ヒョウを羽交い締めにすべく動き出したその刹那。

ばんっ

と短い脚でアスファルトを蹴った赤い『歩ヒョウ』は逆上がりの要領で空中に舞いあがった。
そして、くるりとビルドアームの頭部を越し身を丸めると、

ばきっ

と、今度はビルドアームの背中を蹴りつけた。
左手は頭を保持したままだから首にはかなりの衝撃があったのであろう、ぶすぶすとイヤな煙がでている。
いや、それどころか千切れかかっている。
赤い『ゴリラ』はそのまま空中でトンボを切って見事な着地を決めた。
遅れて前方へ倒れ込むビルドアーム。
そこへ走り寄るのは。。。小桜であった。
手には何か機材を持っている。
するすると器用にビルドアームの背中に登ると手にした機材をセットした。

バン

小さい爆発音と共に背中の緊急避難用ハッチを強制解除する。

「中の人 生きてるか?」

仕掛けた機材を回収しながら声をかける小桜であった。



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