星乱拳客伝 外伝 三つ目 廻国編

星乱拳客伝 外伝 三つ目 廻国編

三の巻


序章


「じゃ、試用期間は終了ということで、正式な契約ってことでいいかな?」

蘭丸の前にいるのは冴えないサラリーマン風の男。
ヒョウ局『円山(エンザン)』の局長、ジェームス梅田。
ジェームスなくせにバリバリの東洋人の風貌を持つ梅田は胡散臭(うさんくさ)さ全開の笑みで契約書を取り出した。

「はい、お願いします」

(やっぱ止めといたほうがいいかな。。。)

梅田の笑顔に躊躇した蘭丸であったが、手は既にサインしようとしていた。

(。。。っと危ない)

『榊』と書きかけて、思いとどまり、『坂崎』と書き出した。
『榊 蘭丸』は、ここでは『坂崎 蘭丸』であった。

「。。。っという感じで、基本給が若干あがるだけで基本的には今までと同じと考えてもらっていいです。なにか質問は?」

梅田の話しなど全然聞いていなかった蘭丸であったが、聞いてませんでしたとは言えない。

「いや、大丈夫です」

もちろん大丈夫な訳ないのであるが、とりあえずそう言っておく。

「。。。で、ですね、このタイミングで言うのも気が引けるんですが。。。」
「近々、ある『仕事』が入る予定なんですけど、これが少々厄介な代物で・・・いや、法を犯すとかその類のものではないんですが。。。」
「仮に、そういう『仕事』を紹介した場合に受けていただけますか?」

(厄介って。。。何がどう厄介なんだか聞いてみないとな。。。)

蘭丸の沈黙をどう取ったか梅田は、

「そうですよね、これだけの情報じゃ何とも言えないですよね」

額の汗をくたびれたハンカチでパタパタ拭きながら、

「今、言えることはコレくらいでして。。。」

と梅田が言葉を切った時、

「いいっスよ。もともと廻国の身ですから、少々の厄介ゴトは大歓迎です」

蘭丸の言葉に、いやー助かりますと満面の笑顔の梅田。
では、改めて宜しくねと、右手を差し出す梅田とユルイ握手をしてから事務所を出る蘭丸。

「ふぅー」

妙な疲労感を覚えながらエレベータのボタンを押そうとした時、チンっとドアが開いた。
一歩左へ避けて降りてくる人を通す、蘭丸。

(あれ。。。どこかで?)

170センチくらいであろう長身の女性。
東洋系。メガネ。黒髪。
軽く会釈してから入れ替わりにエレベータに乗り込む。

(誰だっけな。。。)

1階のボタンを押したがエレベータは上昇した。
上の階で降りる人がいたのである。

(やっちまった)

記憶には残らない程度の不快感が堪らなくイヤな蘭丸であった。



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