星乱拳客伝 外伝 −三つ目−

星乱拳客伝 外伝 トーナメント編 第7話

Pumpkin And Honey Bunny



第5章


起き上がりかけたところに飛んできた『ランメール』の右回し蹴り。
それを再び右へ倒れこみつつ避けようとする『エスパーダ』。

みしみしぃぃぃ

己の頭部と迫り来る右足の間になんとか左手を滑り込ませた蘭丸であったが、とうていブロックするといえるほどの効果は無かった。
そのままアリーナを二転三転・・・油断することなく『ランメール』=『藤十郎』を伺う『エスパーダ』=『蘭丸』。
しかし、碧い『歩ヒョウ』は追撃してはこなかった。
仁王立ちである。
めまぐるしい展開に一呼吸置くことで、観客がさらにヒートアップする。
それを十分考慮した藤十郎の行動であった。

(どうした二代目)

藤十郎の光信である。
とその瞬間、蘭丸の脳裏に昔の光景がフラッシュバックした。
それは蘭丸が修行中のことである。
蔓技(関節技)の訓練中であった。
無限とも思えるような藤十郎の技を自宅の工場の片隅でひたすら受けていた頃の話である。
(実際に『歩ヒョウ』に乗って技の修行など、はた迷惑もいいところである。)
一通りの基本動作を習得した蘭丸に、

「こんなもんだろう」

と藤十郎は言い、

「まぁオレには、通用しねぇがな」

こう締め括ったのである。

(これが『通用しねぇ』ってことか)

完全に極まった状態からの脱出は藤十郎の自信の証であったのかもしれない。
いや、当時は本当にホラだった可能性もある・・・

(じじぃ・・・)

藤十郎は意図的に『歩ヒョウ』=『レン』の脚の関節を外したのである。
『ヒョウ師』流に言うならば一部分の纏(まと)いを解いたのであった。
『歩ヒョウ』でなくてはできない技であった。
それは榊藤十郎だからこその技でもあった。
『歩ヒョウ』が人型である理由は『ビルドアーム』のそれよりも遥かに論理的である。
人が人の意識で動かしているからである。
即ち、人に存在しない部位を作っても動かすことは困難である。
『歩ヒョウ』を纏う、纏いを解くという動作に関しては、ある程度『歩ヒョウ』に刷り込むことも可能である。
しかし、一部分の纏いを解くとなると話は別であった。
人はそのような動作はしない。
少なくとも日常的な動作として、関節を外すということを行う人は少ないであろう。
いや・・・まて・・・
目前の老人なら、榊藤十郎という生物であれば、そんな訓練すら行っていたのかも知れない。

(へへん)

蘭丸は衝撃で切ったのであろう口中の血の鉄の味を感じながら、
獰猛に微笑んだ。

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『文句(もんく)があるなら、かかってこいよっ』
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