星乱拳客伝 外伝 −三つ目−

星乱拳客伝 外伝 トーナメント編 第7話

Pumpkin And Honey Bunny



序 章


そいつは目の前にいた。
昔と変わらぬ姿で。
いや・・・正確にいうなら、同じ姿ではありえない。
どこかが壊れるたびに修理し、改良し、『歩ヒョウ』は育ってゆくのである。
それでもなお、眼前の奴は昔のままであった。
榊藤十郎
いま、眼前の巨人の中に納まっている老人である。
彼の持つ独特の雰囲気のようなもの・・・オーラなどという小洒落たものでなない・・・が、その内部から陽炎のように緩く漂っているように思えた。
それが、この老人を榊藤十郎たらしめるものであったろうか。
十年ほども昔、そこにいた。
そして今も、同じようにそこにいる。
いくら技量を上げても榊藤十郎はそこにいた。
生物としてのピークはとっくにすぎているはずなのに、こうして対峙してみるとその距離は変わらない。
いや、藤十郎との距離がどれくらいなのかが見えない。
手を伸ばせば届きそうなところにいるように思えば、まだまだ彼方に感じることもあった。
底の見えない老人であった。
かつて、十二拳聖の一人に数えられた(一部の知識人によっては『わざと』外しているものもあったが・・・)だけのことはある。
常識の通用しない老人であった。
若い当時、廻国していたときの話をハル爺さん(外伝 鋼の記憶 参照のこと)から聞いたことがあるが、どれも信じ難いことばかりであった。
曰く「30台のビルドアームと闘って勝利した」
曰く「バトルアームを叩きのめした」
そのときは単なるホラとしか思えなかったが、今なら信じてしまいそうになるから恐ろしいものである。

「Ready GO」

蘭丸の思考を分断したのは、試合開始のアナウンスではなく、
不意に膨れ上がった『歩ヒョウ』=『レン』の鬼気であった。

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『文句(もんく)があるなら、かかってこいよっ』
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