星乱拳客伝 外伝 −三つ目−

星乱拳客伝 外伝 トーナメント編 第4話

Knockin'on Heaven's Door



第5章


ガツン
と巨大な拳が地面を叩いた。
いや、激突したというべき轟音であった。
次の左拳、
更にその次の右拳も空をきる。
闘いに勝つためのヘビーチューンを施したビルドアームと、どこにでもありそうな平凡なビルドアーム。
試合が始まる前から勝敗は決しているように思えた。
しかし、巨大な豪腕は平凡な機体を捕らえられずにいた。
決して届いていない訳ではない。
空中を舞う羽毛を捕らえられないように、その豪腕が空回りしているのである。
既に軌道が決まっているかのような両者の動きはどこか演劇じみてさえいた。
しかし・・・
たとえ裏があったとしても暴風雨がごとき剛拳が数十センチ単位で前後左右を飛び回っていては冷静ではいられまい。
「ヘヴンズ・ガーディアン」
これが、その名を名乗るビルド・アームの実力なのか。
14発目。
試合開始からの左右の連打の数である。
時間にして30秒ほど。
一方的な攻撃のことごとくをかわしてのけたヘヴンズ・ガーディアンであったが、逆に一度も攻撃に転じてはいなかった。
避けてばかりでは勝てない。
当然のことである。
観客もしだいにそのことに気づき初めている。
アリーナ付近から徐々に奇妙な空気に変わってゆく。
17発目。
右のストレートのフォローに放った左の大振りなフックに合わせて不意に大きく踏み込んだヘヴンズ・ガーディアンは眼前の巨大な左腕を軽く捻った。
まさに軽くであった。
その瞬間、時間が止まった。
そして、重力は意味を失った。
軽く捻った左腕を中心に巨大なビルド・アームが回転した。
ひどくゆっくりした動き。
巨大なキャタピラが浮き上がり天地が逆転した。
如何に豪腕であろうともそれを支えている巨体ごとふりまわせるような代物ではない。
いや、それ以前にその現象を引き起こしたビルド・アームこそどうみても普通のビルド・アームである。
奇術めいた闘い。
と、そのときであった。

がしゃん

重力が己の役割を思い出したかのように落下した巨大なビルド・アーム。
まっ逆さまに落ちた巨体の頭部は胴体にめり込んでいた。
どすんとうつ伏せに倒れこんだビルドアームは、めり込んだ頭部から煙を立ち上らせながらもがいていた。
勝負あり。
誰もがそう思ったその瞬間であった。
ヘヴンズ・ガーディアンは走った。
野生の獣が獲物を狩るが如く。

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『文句(もんく)があるなら、かかってこいよっ』
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