星乱拳客伝 外伝 −三つ目−

星乱拳客伝 外伝 トーナメント編 第4話

Knockin'on Heaven's Door



第1章


喧騒であった。
一つ一つは意味のある言葉である筈なのだが、全体として認識した場合その意味は失われる。
いや、失われるのは言葉としての意味であり、そこには別のモノが生まれる。
あえて表現するなら、その場の持つ感情といったところか。
喜びであり、怒りであり、歓喜であった。
その波のような意思に身を委(ゆだ)ねている老人。

「いいねぇ、この雰囲気」

仏が笑うなら、こんな顔であろう顔であった。

「たまにゃこういう場所で若者のエキスを吸わねぇとな」

半眼で眠るような表情のまま不意に体を回転させた老人。

「老人はいたわるもんだぜ、若いの」

老人に腕をひねり上げられた男の手には、茶色の財布が握られていた。
いかんねいかんねと楽しそうな老人は、若者の右膝の裏を蹴り飛ばしひざまづかせた。

「じじぃ・・・」

若者の苦しそうな声を楽しむように老人は笑う。
無論、ただの老人ではない。
榊藤十朗という名の生き物であった。

「いい若いモンが困ったもんだ」

ちっとも困ってないような表情の藤十郎は茶色の財布を取り上げ頭上に掲げた。

「さぁて、どうしたもんかな」

周りを十分意識した行動と発言であった。
藤十郎の周りの人々が徐々にこの事態に気づき始めている。
と・・・

「フェイロントーナメント第1回戦 第3試合を行います」

アナウンスの声にちぇっと小さく舌打ちした藤十郎は若者を蹴り飛ばすと、

「ちょっと面白そうだったのによぉ」

と人ごみに紛れていった。

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『文句(もんく)があるなら、かかってこいよっ』
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