星乱拳客伝 外伝 −三つ目−
MY FAVORITE MISTAKE
第2章
「只今より、第1回フェイロントーナメント1回戦第1試合を行います」
暗転した闘技場にアナウンスが響く。
と、同時に流行の音楽であろう、最近よく耳にする低音が流れ始めた。
「3戦3勝」
「三つ眼の『歩ヒョウ』・・・ランメール」
照明効果なのであろう、暗闇を飛びかい始めたスポットライトを追うでもなく見ていた蘭丸は複雑な心境であった。
(ランメール・・・か)
それは、かつての自分のリングネームであり、今回に関しては自分の師匠であり祖父である藤十郎のそれであった。
「演出、凝りすぎじゃねえか?」
自らの思いとは違う問いを後ろにいる筈の天道に問うた。
「ずっと同じでは飽きられてしまうでしょ?」
意外に近いところにいた天道が答えた。
「今回のトーナメントは、よりエンターテイメント色を濃くしてみたのですが概(おおむ)ね好評なようですね」
観客の盛り上がりを確認した天道が満足そうに肯く。
「藤十郎さん、いい選曲してますね」
蘭丸さんの推薦ですか、と続く天道の問いに、いいやと返した蘭丸。
眼下ではスポットライトの中で右手を上げる『歩ヒョウ』=『ランメール』の姿があった。
「続きましては・・・」
「23戦18勝5敗」
「帰ってきた赤きヒーロー・・・TEAM梅草(うめぐさ)」
フェイロン黎明期に活躍した赤いビルドアーム。
梅草兄弟といえば当時フェイロンでは知らぬ者などいない強者であった。
しかし数年前、突如としてフェイロン闘技場から消えたのは、
兄のアキラがまともな仕事に就いたことで活動できなくなったという、もっぱらの噂である。
「久々に戻ってきてもらったんですよ」
蘭丸のもとへやってきたように、梅草兄弟のところへも行ったのだろう。
手元のスポーツ新聞『勝機』から『TEAM梅草』のデータを探し出す。
名称:TEAM梅草
戦績:23戦18勝5敗
ビルドアーム:カタルス社製HKUニンバムType2
コメント:正義は勝つ!
「なかなか渋いビルドアームじゃないか」
重量タイプのビルドアームや建築現場で使用するような重機を中心に展開しているカタルス社が数年前リリースしたのがHKUニンバムである。
カタルス社のヒット商品である重量タイプのHKタルガスの中型タイプとして満を持して売り出されたのだが、
中型タイプとしてはサイズが大きく、小型軽量かつ美しいラインを持った機種が好まれる市場傾向とは大きく路線を外していたため不人気機種として市場に埋もれるはめになった。
しかし、その頑強で汎用性の高いフレームや故障とは無縁の安定したパワーユニットは隠れた名機としての評価は高い。
特に、このType2は複座式のビルドアームでかなりのレアものである。
「マシン性能とドライバーの腕は申し分ないのですが・・・」
言葉を濁した天道は顎に右手を添えて、ため息をついた。
その直後・・・
ぽんぽんぽんぽん
軽快な鼓(つづみ)の音から始まるこの曲は、たしか・・・
(なんだ、こりゃ?)
どこかで見たことのあるロボット(ビルドアームとは表現しにくい)がスポットライトの中で見得を切っている。
「梅草兄弟の趣味でして・・・」
流れる音楽は佳境に入り・・・疾風怒涛ニンジャイダー・・・そう叫んでいた。
TEAM梅草のビルドアームは日曜の朝早くに放送している子供番組のロボットそのものであった。
「へぇ〜」
単純によく作ったなという思いを込めて蘭丸は唸った。
「しかしこうしてみると、正義の味方と悪役に見えるから不思議だな」
楕円形のアリーナ。
そこには、少し動き難そうな正義のロボットと碧い異形の『歩ヒョウ』が対峙していた。
次章:第3章
『文句(もんく)があるなら、かかってこいよっ』
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