星乱拳客伝 外伝 −三つ目−
LIVEN' ON THE EDGE OF THE NIGHT
第14章
「聞こえる?」
スピーカーからエリの声がする。
蘭丸がああ、とだけ返す。
「ハッチ閉めるよ」
返答を待つことなど考えていないのであろう、『ハッチ閉めるよ』の『よ』が言い終わらないうちに、ハッチは閉まった。
一瞬の暗闇の後には、ハッチの内壁に外部映像が映し出された。
「立たせるよ」
どうやらコントロールはエリが握っているらしい。
ゆっくりと風景が下降してゆく。
無論、ビルドアームが立ち上がったためである。
完全に立ちあがると蘭丸の姿勢は少し背の高い椅子に浅く腰かけたような状態になった。
ビルドアームに乗っているというよりは、むしろ『歩ヒョウ』に乗っている姿勢に近かった。
「これから、そちらにコントロールを渡します」
リエの声であった。
重要な説明は彼女の担当なのかどうかは、定かではないがエリよりはましであろう。
「そのビルドアームのコントロールにはSRSシステムが搭載されています」
蘭丸はSRS(何の略だか忘れたが)という新しいコントロール技術を何かの記事で見たことを思いだした。
「ああ、なんとなく聞いたことがある」
たしか『まるで、自分のからだのように』っていうのが売りだったはずである。
実際、義手、義足等には随分前から使われてきたテクノロジーだ。
「話が早くて助かるわ」
「じゃ、システムに関する説明は省くけど・・・そいつ、遊びがないからね」
スピーカーの向こうのエリの声は、大幅に割愛した説明の最後に気を付けてねと付け加えた。
「それじゃ、コントロール渡すよ」
エリの言葉が聞こえた瞬間、ビルドアームは大きくふらついた。
(なんだ、こりゃ)
蘭丸は昔、イベントで虎の着ぐるみを着たことがあったのだが、それに似ていなくもない。
いや、もっとストレートに言えば『歩ヒョウ』を纏っている感覚に一番近い感覚だった。
最初の姿勢より、若干脚を前後に開いた形でビルドアームは安定した。
「立ってるよ」
エリである。
「そうね・・・」
リエもまた少なからず驚いているようであった。
「どこかで、このシステム使ったことあります?」
いや、とだけ返すとどこか釈然としない様子であったが、システム調整という名目で様々な動きを要求された。
腕を回し、体を捻り、ジャンプする。
一連の動作の後、ご苦労様の言葉とともに再びコントロールは蘭丸の手を離れた。
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『文句(もんく)があるなら、かかってこいよっ』
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