星乱拳客伝 外伝 −三つ目−
LIVEN' ON THE EDGE OF THE NIGHT
第3章
「なぁ蘭丸、この事ぁ二人だけの秘密だぜ」
藤十郎は蘭丸の背中を一つ叩くと、自分の部屋へ消えた。
(どうしたもんかな・・・)
明かりの消えた自宅の修理工場に並んだ巨大なオブジェのようなビルドアーム達。
(こいつが使えりゃな)
つい先日発売されたばかりのビルドアームはもちろん客の預かりものだ。
自分の自由になるビルドアームといえば、スピードを無視したパワー重視の超重量級か、特殊マニュピレーターを装備した精密作業用である。
しかも、フェイロン闘技に出場するのであれば、それ相応のダメージは覚悟しておかねばならない。
(手持ちの駒は一つも無いってことか)
諦めがかんじんと電源と戸締まりを確認していると・・・
「こんな時間に誰だ?」
工場奥の工作室から声がした。
聞き慣れた声の主は、この工場で働くデニスのものであった。
こんな時間に誰かと思いましたよ、と工作室で太い笑みを浮かべる男の手には分解されたラジコンのパーツが乗っていた。
「デニスこそ、どうしたんだい。こんな時間に」
いや、と照れ臭そうに言ってから、
「息子の手伝いで始めたんですが、自分がハマっちゃってね」
周りを見れば、細かく仕切られたパーツボックスには整然とモーターやギア、タイヤが並び、仕事では使わない形状の工具が工具箱から覗いていた。
「ヨメには、あんたの凝り性にゃつける薬がないねぇ、なんて言われて弱ってるんですよ」
「昨日なんか、倉庫のデカイやつ売っちゃえばってあの野郎・・・」
(・・・ってことは)
「じゃあ、デニスのビルドアームは倉庫に眠ってるってことかい」
「ええ、ここしばらく起動もさせちゃいませんがね・・・蘭丸さん、あのオモチャ使います?」
蘭丸は猫科の肉食獣の笑みを浮かべて、言った。
「ありがたく使わせてもらうよ」
その笑みはかつて藤十郎が若き日に浮かべた笑みと同じ笑みであった。
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『文句(もんく)があるなら、かかってこいよっ』
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