星乱拳客伝 外伝 −三つ目−
LIVEN' ON THE EDGE OF THE NIGHT
序 章
目の前には見慣れた顔があった。
いつもの微笑を浮かべているのは天童歩である。
「また、珍しい場所へ呼び出すじゃねぇか」
この男とまっ昼間に、しかも、近所のファミレスでお茶をする事になるとは思ってもいなかった。
「別に珍しくはありませんよ。私だって『普通』の人間ですからね」
フェイ・ロン賭博のオーナー。
しかも、かなり怪しい裏の顔も持っている。
・・・ちっとも普通じゃないことはお互い承知の上だ。
まあ、俺だってビルド・アーム修理屋で『ヒョウ師』。
なおかつフェイ・ロンの闘士だ、人のことをとやかく言えた義理じゃない。
「で、用件はなんだ」
「まさかこの店のハンバーグランチを食べるのが目的じゃないだろう」
俺の後ろの席じゃ、4〜5人の主婦が何かの習い事の帰りだろうか、お茶にケーキでぺちゃくちゃ会議中だ。
どこか遠くの方で、子供の叫ぶ声とその母親の声。
カウンター席では、くたびれたサラリーマンが仕事をサボってコーヒーと新聞で時間を潰している。
どこにでもある日常の風景。
しかし・・・目前の男は非日常からやってきた男。
それもとびきり危険な世界の人間だ。
「実は・・・」
と銀色のアタッシュケースから取り出したのは、一枚のコピー用紙だった。
「こんな企画を近々予定しておりまして」
差し出された紙には『フェイ・ロン トーナメント』の文字が踊っていた。
差し詰め出場の依頼だろう。
そういえば、肝臓の悪そうなマッチメーカーのおやじはどうしているだろうか。
「面白そうだが、マッチメーカーのおっさんの居所は分からんぞ」
すでに答えは用意されていたらしく、天童はあいかわらずのポーカーフェイスで、
「彼はマッチメーカーの仕事よりアルバイトの方が忙しいらしいそうで、しばらく京香(けいか)・・・このコロニーの名前だ・・・には戻らないそうです」
そう言った。
「それじゃ『ランメール』のマッチメーカーは誰がやるんだ」
俺は嫌な予感がした。
残念ながらこの手の予感が外れたためしはない。
「『ランメール』のマッチメーカーは私がやります。既に了解も得ていますしね」
(・・・?)
「おいそんな話、俺は聞いちゃいねぇぞ」
いまいちしっくりこない展開だ。
胸の内の嫌な予感が膨れあがる。
「今、話したばかりですから当然ですよ」
「今回、榊 蘭丸さんにはビルド・アームでの参加を依頼しにきたのです」
どういうこった・・・と言おうと腰を浮かしかけたその時、
「よぉ、蘭丸。おめぇ俺に隠れて、えらく楽しそうな事してるらしいじゃねぇか」
天童の座った向こう席から身を乗り出しているのは、榊 藤十郎(さかき とうじゅうろう)。
俺の爺さんだ。
つまり、あの悪名高い『三つ目』の『ヒョウ師』であり、俺の『ヒョウ術』の師匠でもある。
嫌な予感の元凶は、天童の肩をぽんぽん叩きながら笑っていた。
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『文句(もんく)があるなら、かかってこいよっ』
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