星乱拳客伝 外伝 −三つ目−

瀕死の重傷を負って尚、闘いを止めようとしない『緋』の『歩ヒョウ』。
しかし、これ以上の闘いは・・・
『緋』の『歩ヒョウ』を止めるには、完全なる破壊をもってするしかないのか。
蘭丸の決断や如何に。

星乱拳客伝 外伝 −三つ目− 第12巻

TOMMY THE CAT



終章 Decide
決断

右拳。右脚。左脚。
右肘。右膝。右膝。右肘。
・・・・・・
十数発の攻撃は何れも外れていた。
いや、正確に言うならダメージを与えられなかったというところだろうか。
左上半身を破壊された『緋』の『歩ヒョウ』の打撃では蘭丸の『歩ヒョウ』にダメージを与えることができなかったのである。

(どうする・・・)

蘭丸は選択を迫られていた。
がつんがつんと打ちつけられる『緋』の『歩ヒョウ』の打撃を捌きながら、蘭丸は考えていた。
力の失われた打撃であるとはいえ、このままにしておくわけにもゆかない。
かといって、『緋』の『歩ヒョウ』に更なる攻撃を加えることは、『緋』の『歩ヒョウ』内部 の『ヒョウ師』の生命にもかかわる。
と、そんな事を考えていた時であった。
蘭丸の予想していなかった角度から『緋』の『歩ヒョウ』の右拳が跳ねあがってきた。

(くそっ)

油断であった。
絶対的有利な立場が蘭丸の心につくった隙間であった。
左下方から、ちょうどアッパーのようなかたちで迫る『緋』の『歩ヒョウ』の拳は蘭丸の『歩ヒョウ』=『レン』の顎を打っていた。

(ぬんっ)

その力に逆らわずに岩盤を蹴った『碧』の『歩ヒョウ』は宙空に舞いあがることによって『緋』の『歩ヒョウ』の打撃力を中和した。
さらに伸びあがる『緋』の拳に自らの左手を添える。
そして・・・

ごりっ

捻った。
『緋』の『歩ヒョウ』の右肘、あるいは肩の関節が破壊された音が振動として伝わる。
そして『碧』の『歩ヒョウ』はそのまま『緋』の『歩ヒョウ』の後ろにまわり羽交い絞めにした。

ぎしぃぃぃ

両腕を破壊されて尚、闘おうとする『緋』の『歩ヒョウ』の首を絞め上げる『碧』の『歩ヒョウ』。

(いいかげんにしやがれ)

ぎりぎりと力を強めてゆく『碧』の『歩ヒョウ』。
『緋』の『歩ヒョウ』の首が徐々に角度を変えてゆく。

ぎしぎしっ

頭部や首といった部位は人にとってそうであるように『歩ヒョウ』 にとっても、全身の動きを司る『筋結い』の密集している場合がある。
そうであるが故に頭部や首の破壊は、その搭乗者である『ヒョウ師』の身を守るために搭乗者の強制排除を引き起こす場合がある。
今それが起こり、『緋』の『歩ヒョウ』の『ヒョウ師』が宇宙空間に放り出された時、万一『ヒョウ師』が宇宙服を着ていなかったならば、それは即座に『ヒョウ師』の死を意味する。
一気に首を折れない蘭丸の心の中には、その拭いきれない万一の可能性があった。

(どうする、蘭丸)

自分に問い掛ける蘭丸。
『緋』の『歩ヒョウ』の首の角度は限界に近づきつつあった。

ぎしっぎしっ

折れる。
蘭丸がそう思った瞬間であった。

「もう、そのくらいにしておきませんか」

通信機から天道の声がした。
次にもらした蘭丸の深いため息は、安堵のため息のように聞こえた。





外伝 第12巻

『文句(もんく)があるなら、かかってこいよっ』
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