星乱拳客伝 外伝 −三つ目−

『トミー・ザ・キャット』を討つことを明言した天道。
その天道が蘭丸に示した場所。
それは・・・

星乱拳客伝 外伝 −三つ目− 第12巻

TOMMY THE CAT



第6章 Astronaut
アストロノーツ

コロニー『京香』。
蘭丸たちが生活の場としているところである。
このコロニーは密閉型コロニーであり、太陽光を取りいれる為の巨大なミラーはない。
その代わりと言う訳ではないが人工の大地となる巨大な鋼の円筒の周囲には有害な宇宙線や飛来物を遮断するために巨大な岩盤が円筒状に配されている。
これは木星軌道と土星軌道の間にあるアステロイドベルトから運ばれてきた小惑星をもとに造られた代物で、備蓄用の鉱物資源としても機能している。
つまりコロニー『京香』は二重の円筒を持っており、外見は宇宙空間に浮かぶ蓑虫(みのむし)のように見えた。
その蓑(みの)の内側。
外側の岩盤と内側のコロニー本体の狭間である。
宇宙線を防ぐために造られた岩盤の円筒の中は闇が支配する場所であった。
その闇に弱々しく反抗しているのは、所々でコロニー本体から漏れる光である。
その朧(おぼろ)な光が凸凹の岩盤をゆっくり照らしながら移動して行く。
これは停止している岩盤に対してコロニー本体が回転しているからである。
闇の中をゆっくりと平行移動する薄暗いスポットライトのような光はこの空間を夜の刑務所のように見せていた。

(うまいこと考えやがったな)

内側の岩盤を行くのは碧い巨人。
蘭丸の『歩ヒョウ』=『レン』であった。
『トミー・ザ・キャット』を討つべく天道の示した場所とはこのコロニー『京香』の周囲に配された岩盤であった。

「方向と距離は?」

ヘッドセットから伸びたマイクに向かって蘭丸が問う。
本来『歩ヒョウ』には通信機器は無い。
これは『歩ヒョウ』の構成材料である『HT鋼』が通信の妨げになるというのが理由である。
また別の見方をすると極めて高いステルス機能を有しているということでもある。

「方向は進行方向、左に15度。距離は約50メートル。そろそろ警戒してください。」

蘭丸のヘッドセットから聞き覚えのある声がする。
天道からの通信である。
『HT鋼』の影響を受けている筈の『歩ヒョウ』の内部とどうやって通信するのか。
それは、蘭丸のヘッドセットから伸びているコードを辿ってみれば解る。
両耳の握り拳ほどの大きさのヘッドフォン。
その右側から伸びたコードは蘭丸の前やや下方へと消えていた。
よく見ればそのまま『歩ヒョウ』の内側と繋がっているのが見えたであろう。
いや、実はコードが繋がっている訳ではなく『歩ヒョウ』の隙間から外部に露出しているのである。
コードはそまま外部に1メートルほど出た所で不意に途切れていた。
『糸電話』
そう呼ばれている携帯型の通信機である。
通信機の本体はヘッドセットであり、コードはアンテナである。
これは昔、宇宙空間で作業をする人間が貧弱な通信機の感度を上げるために巨大なループアンテナを造るべくコードを自分の宇宙服に縫いつけていたのを改良したものであるらしい。
『らしい』というのは技術の発展した今、この『糸電話』を使っているのは酔狂なひと握りの『ヒョウ師』たちだけであったからである。

(警戒するっていったところで・・・)

時折通り過ぎる頭上の光から身をかわしつつ進む蘭丸。
残り50メートルという通信からさらに20メートルは進んだころであろうか。

(そろそろ見えてもいいんじゃねえか)

前方には同じような岩盤が横たわるだけであった。
いったんその場に止まり、身を伏せつつ前方の様子をうかがう。
時折行きすぎるコロニーからの光を頼りに『トミー・ザ・キャット』を探す蘭丸。

(宇宙船って言えば、それなりの大きさだぜ)

天道の話では小型か中型の宇宙船が伏せてあるということであった。
しかし、そのような形跡はみあたらない。

(こっちからじゃ影になって見えないのか・・・)

低い姿勢のまま右へ移動しようとしたその瞬間であった。

(・・・見つけたぜ)

何を見つけたというのか、前方には先程と変わらぬ岩盤があるだけであった。





次章予告

目前に連なる岩盤。
そこに探し求める宇宙船の姿はない。
しかし・・・
物言わぬ岩に何を見たのか蘭丸よ。
『トミー・ザ・キャット』その姿が、お前には見えるのか。

外伝 第12巻
次章:第7章 Unknown 見えない敵

『文句(もんく)があるなら、かかってこいよっ』
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