星乱拳客伝 外伝 −三つ目−

『緋』の『歩ヒョウ』を見失った蘭丸。
作戦の失敗を悔いる蘭丸に天道は意外な言葉をかける。
天道の真意はどこにあるのか。

星乱拳客伝 外伝 −三つ目− 第12巻

TOMMY THE CAT



第5章 Spider Strings
蜘蛛の糸


薄暗い空間。
聞こえるかどうかという音量のピアノのBGM。
この男には闇がよく似合っていた。
天道 歩。
少年の面影を残した男である。

「ごくろうさまでした」

天道はいつもの微笑を浮かべてもう一人の男に言った。
その言葉をどうとったものか考えているのは榊 蘭丸である。

「きつい冗談だな」

蘭丸は昨日、ターゲットである『緋』の『歩ヒョウ』を取り逃がしている。

「あれからいろいろ調べましてね」

手元の資料を見ながら天道は続けた。

「まずトレーラー。あれはやはり盗難車だったようです」
「3日前に建設業者から盗難届けが出ています」

そう恐い顔をしないでくださいと、蘭丸に資料を渡すと先を続けた。

「ところが最近・・・2日前ですが・・・F3ブロックで交通量調査がありましてね、ちょうどその交通量調査ポイントの前で頻繁にあの車両が目撃されているんです」

「お前は警察か」という言葉を飲み込んで蘭丸は続きに耳を傾けた。

「さらに周辺を調べたところ、奴等のアジトが分かりました」
「近くにあるモーテルを2部屋・・・トレーラーを止めるには駐車スペースが2台分必要だったようですね・・・を借りていました」
「それから、モーテルの防犯カメラの映像とモーテルの主人の証言ををもとにホロイメージを作成しました」

こちらですという天道の言葉と同時にテーブルの上に二人の人間が浮かびあがった。
一人は男性。
身長は170cmくらいだろうか、年齢は30才前後。
小太りであったが手脚が妙に長く蘭丸は立ちあがったカエルをイメージした。
もう一人は女性。
身長は男と同じくらいであったが、少し高めのヒールを考慮しなければならないだろう。
年齢は20代だとは思われるが、それ以上絞り込むのは難しい。
狐を思わせる顔つき、どちらかというと美形である。

「彼等が『トミー・ザ・キャット』です」

言いきった天道は続けた。

「彼等は昨日のあなたの活躍で、この一件に我々が関与していることに気付いたはずです」

それがどうしたという蘭丸の視線を受けながら天道は更に続ける。

「彼等が正面から我々と争うことはありません」
「武装、人員ともにこちらが上回っているからです」
「それは彼等自身が一番よく解っていることであり、彼等が今まで無事でいられたのも客観的な見方ができていたからです」

少し間を置いた天道は蘭丸の方を向いた。

「このまま逃がすことも考えましたが、これからも『歩ヒョウ』をつかった盗みを繰り返されるのはクラアントの意志にも反するものです」
「・・・討ちましょう」

いつもの天道であったが、蘭丸にはなぜか天道が悲しんでいるように見えた。





次章予告

『トミー・ザ・キャット』を討つことを明言した天道。
その天道が蘭丸に示した場所。
それは・・・

外伝 第12巻
次章:第6章 Astronaut アストロノーツ

『文句(もんく)があるなら、かかってこいよっ』
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