星乱拳客伝 外伝 −三つ目−

『緋』の『歩ヒョウ』を追い闇の中へと身を躍らせた『碧』の『歩ヒョウ』。
闇を住処とする両者。
どちらが闇を味方につけるのか。

星乱拳客伝 外伝 −三つ目− 第12巻

TOMMY THE CAT



第4章 MidnightRun
疾走


ごう

と風が唸っている。
身長が5メートルはあろうかという巨人が動く時、
空気は壁と化す。
その空気の壁に体をねじ込むように碧い巨人が疾走していた。
『歩ヒョウ』
そう呼ばれている巨大な人型である。

(野郎、速ぇな)

『歩ヒョウ』を纏(まと)う男『榊 蘭丸』。
『ヒョウ師』である。
彼の前方十数メートルを走る、もう一体の『歩ヒョウ』。
それを追っているのである。

(やばいな・・・離されてる)

スピードには自信のあった蘭丸には受け入れがたい事実であった。
だからといって、ここで追跡をあきらめる訳にはいかない。
『追う者』と『追われる者』。
両者のあいだに圧倒的な力の差がない場合、
『追われる者』・・・つまり逃げている側だ・・・の方が有利になる。
それは『逃げる』という行動と『捕らえる』という行動の差である。
逃げる相手を追って走りつつ相手を捕らえるという行動は意外に困難なのである。
基本的に掴む・・・あるいは捕まえる・・・という動作を走りながら行うことには無理があるのだ。
また逃げる相手に対して攻撃を加える場合も同様である。
拳あるいは蹴りを放つとき軸脚は固定されるのが普通である。
逃げる相手に対して打撃を加える場合は、軸脚が固定している間に相手が移動する距離を計算に入れなければならない。
結果的に今のように相手がかなりの高速移動をしている場合には相手に手が届く場所、あるいは相手よりも前で打撃を繰り出す必要がある。

(やべぇ見失っちまう)

ジグザグに走る『緋』の『歩ヒョウ』のスピードは衰えず、
ともすれば視界から消えてしまいそうになる。

(なんとか足留めを・・・)
蘭丸は『歩ヒョウ』=『レン』の腰の隠しから全力疾走のまま何かを取り出し、腕を振る動きにあわせて前方へアンダースローの要領で放った。
闇を切り裂きつつ飛翔するそれは暗器・・・隠し武器というとこだろうか・・・であった。
楔型の鉄片が前方の人型の背に突き刺さった。
そう思った瞬間、前方の人型は左へ跳んでいた。
標的を失った暗器が闇へ飲まれるのをほおったまま、蘭丸も左へ跳んだ。
そして・・・

(見失った)

ハイウェイを仰ぎ見る闇の中に『緋』の『歩ヒョウ』の姿はなかった。





次章予告

『緋』の『歩ヒョウ』を見失った蘭丸。
作戦の失敗を悔いる蘭丸に天道は意外な言葉をかける。
天道の真意はどこにあるのか。

外伝 第12巻
次章:第5章 Spider Strings 蜘蛛の糸

『文句(もんく)があるなら、かかってこいよっ』
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