星乱拳客伝 外伝 −三つ目−

深夜。
人気のないスクラップ置場へ一台のトレーラーが向かっていた。
何の変哲もない大型車両。
その目的は・・・

星乱拳客伝 外伝 −三つ目− 第12巻

TOMMY THE CAT



第2章 Intruder
侵入者

闇であった。
深夜。廃棄され、堆(うずたか)く積まれた機械達のつくりだす闇の中の影は彼等自身の墓標の如き偉容であった。
静寂であった。
巨大なオブジェの如き廃棄されたものたちの無言の圧力が外部からの雑音をしめだしているように思えた。
しかし・・・
そんな彼等の静かな眠りは夜明けを待たずに中断された。
大型車両のものであろう轟音とその一対のヘッドライトによって。
ガラガラと聞こえるエンジン音が大きくなり不意に止まった。
同時に眩い光芒を放っていたライトも消える。
そして、静寂。
途絶えたエンジン音とライトによって闇はより深く濃くなった。
しかし、なんだこの音は・・・
小さな音であった。

かたかた

がちゃ

ききききき

注意していないと聞き逃してしまいそうな音であった。
しかし、スクラップの山の前に止まった大型車両が現れる前には聞こえなかった音である。
ん?
なんだ。
何かが動いた。
闇の中に積み上げられた機械達の創り出す闇。
その闇が動いた。
いや正確には、その闇の上を更に濃い闇が動いたのだ。
闇よりも深い人型の闇。

『歩ヒョウ』

そう呼ばれているものである。
巨大な影であった。
身長は5メートルはあろうか、
その人型の影がともすれば聞き逃しそうなほどの音のみを足跡がわりにスクラップの上を動いている。
どうやら、その『歩ヒョウ』は大型車両とスクラップの山を何度も往復しているようである。
更に目を凝らせばスクラップの山から様々なパーツを集めているのが解る。
この奇怪な作業が始まって数分。
それは突然であった。
質量さえ伴っているかのような闇を切り裂く数条の光。
その光はスクラップの山に這い付くばった人型を舞台上の演者がごとく浮かびあがらせた。

『緋』

であった。
その人型の全身は深い赤、『緋』色であった。
その色は光の届かぬ深海を住処とする魚がそうであるように、闇の保護色でもあった。
ぎろり。
と『緋』の人型が振り返る。
迎えるのは『碧』の人型。
『ヒョウ師』=『蘭丸』の駆る『歩ヒョウ』=『レン』であった。





次章予告

『緋』と『碧』

巨大な人型はお伽話の『鬼』そのものであった。

相対する二人の巨人よ。

何を思う・・・

外伝 第12巻
次章:第3章 Scarlet Demon 『緋鬼』

『文句(もんく)があるなら、かかってこいよっ』
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