星乱拳客伝 外伝 −三つ目−

星乱拳客伝 外伝 −三つ目− 第12巻

TOMMY THE CAT



序 章 Tomy The Cat
トミー・ザ・キャット


「『トミー・ザ・キャト』を御存じですか」

天道 歩(てんどう あゆむ)がいつもの薄い微笑みを浮かべた顔で、ずるそうに言う。

「ネコがどうかしたのか」

榊 蘭丸(さかき らんまる)がいつものようにぶっきらぼうに返す。
ここは天道のアジトとも言うべき場所であった。
薄暗い部屋の一方の壁がガラス張りになっている。
その向こうでは、巨大な鋼鉄の生物が戦っていた。
『フェイロン闘技場』
その一画に作られた部屋である。
無論、一般の立ち入りは禁じられている。
この部屋でくつろぐ天道は『フェイロン闘技場』のオーナなのであった。

「ネコではありません。盗賊の名前ですよ」
「ホントに御存じありませんか?」

意外そうに言う天道に蘭丸は盗賊に知りあいはいねぇと言ったあと、

「てめぇとは違ってな」

と小さく言った。
肩をすくめた天道は、随分な言われ様ですねと立ち上がり部屋の中央に置かれた机へ向かった。

「盗賊『トミー・ザ・キャット』がこのコロニー『京花(けいか)』にいるという情報が入りましてね」

机のコンソールを叩くと『闘技場』側のガラス壁が黒く変わった。
・・・どうやら偏向ガラスのようである・・・
そして濃度を増した闇に浮かび上がったのは、どこかで見たことのある建物のホログラムであった。
光源は机の中央部にあり、それを操作しているのは天道であった。
どうやら『本題』に入ったらしい事を察した蘭丸も机に近づく。

「『財団』の美術館です」

そう、このホログラムの建物は数日後にオープンを控えた美術館であった。
こんな辺境コロニーに美術館なんかと、計画を聞いたときに思ったものだ。

「盗賊が美術品を狙うのはあたりまえだろ」

蘭丸が言うのをまあまあと制しながら天道が、

「実はあるところから依頼がありましてね」

美術品の警備か、と蘭丸が言う前に。

「警備任務ではありませんよ」

とまるで蘭丸の考えを見透しているかのようであった。
手元のコンソールを操作して別のホログラムを呼び出す。
今度はビルドアームのようであった。

「これが盗賊の主力ビルドアームです」

どこかぼやけたように見えるのはピントが合ってない訳ではなく、
詳細なデータが不足しているせいであった。

「しかし、特徴のないビルドアームだな」

蘭丸の感想にほうと漏らした天道は、

「このビルドアームは現存するどのビルドアームとも一致しません」
「報告によると寄せ集めのパーツで作ったものにしてはかなりの運動性能を持っているそうですが・・・」
「そして何よりも奇妙なのは、このビルドアームからモーターの駆動音がしないという点にあります」

眉間にしわを寄せた蘭丸が腕を組んだ。
熟考のポーズである。

「低振動モーター、防音シール、それなりに手はあるが・・・こいつじゃな」

低振動モーターというのは精密機器や振動に弱い危険物取り扱いに使われる駆動モーターである。
しかし、これは割高な上にかなり大型になるため、中型の貨物船クラスでないと搭載は不可能である。
もう一つの防音シールはモーター部を防音性能の高い物質で覆ってしまうものである。
しかし、これには発熱という問題があり、このサイズのビルドアームへの処置は不可能に近かった。

「こう考えてはどうでしょう、このビルドアームにはモーターが内蔵されていない」

確かにモーターが無ければ駆動音はしない。
しかし、どうやって動く?

「さっき、ある筋って言ったよな・・・」

何かに気付いた蘭丸は天道に別の問いを発した。

「クライアントについては秘密事項ですので、お話できませんが、あなたの予想は多分正解でしょう」

また天道がコンソールを操作すると、別のホログラムが現れた。
新たなホログラムはさらに解りにくいものであった。
ビルドアームは残ったままである。

「クライアントと私は同じ答えにたどり着きました」
「このビルドアームは『歩ヒョウ』であると」

それならば、わからないでもない。
高い運動性能、モーターの稼動音のしないビルドアーム。
しかし・・・

「『歩ヒョウ』がビルドアームに偽装することは、無かった事ではありません」
「『歩ヒョウ』は足が付きやすいですからね、それに偽装ならスクラップを集めてくるだけでいくらでも違うかたちに加工できます」
「限界はあるにしてもね」
「これがビルドアームの中にいると思われる『歩ヒョウ』の想像図です」

新たに現れたホログラムのことであろう。

「色は暗い赤、あるいは赤っぽい紫」
「身長は5メートルそこそこ、小型ですね」

赤っぽい人型のホログラムを見ながら蘭丸は問うた。

「で俺は何をすればいい」

と。
その問いは次なる戦場を問う戦士のそれに等しかった。





次章予告


暗く狭いコクピット。

そこで蘭丸は待っていた。

新たなる敵を・・・

現れるはずの敵の名は『トミー・ザ・キャット』。

名も知らぬ『歩ヒョウ』の実力やいかに。

外伝 第12巻
次章:第1章 Waiting For The Man 待人

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