星乱拳客伝 外伝 −三つ目−


ぎしいぃ
異様な音が無人のホールに響く。
続く落下音と擦過音がそれを掻き消す。
膝を落した加茂と、地に伏した蘭丸。
一瞬の気の緩みに潜り込んできた加茂の掌に、
蘭丸はこのまま・・・

星乱拳客伝 外伝 −三つ目− 第11巻

THE BLUE MASK



第8章 THE BOUT VII 勝負(7)


舞い上がる土煙。
細かい粒子の粒が天井から振り注ぐ数条のライトに煌めきつつゆっくりと落ちてゆく。
その落下地点に横たわる碧い巨人。
蘭丸の『歩ヒョウ』=『レン』である。

(たまんねぇな)

仰向けに横たわること30秒近く。
加茂が不用意に近づけば反撃してやろうという魂胆である。
しかし・・・

(やっぱりだめか)

海底に潜んでいたイーターフィッシュが移動する素早さで立ち上がる。
全身をチェックするように軽くステップを踏むと左脚を前に、いつもの構えをとった。

(指の引きが甘い・・・筋をやられたかもな)

立ち上がってから数秒のチェックの答えであった。
腕の内側で加茂の掌を受けたため指の引き側がやられたのだろう。
それは指を使っての戦い・・・主に関節技・・・が不能であるということを意味していた。
しかし、ゆっくりと間合いと詰める蘭丸の姿は今までと変わらない。
左前蹴りからいつものように入ってゆく。
左前蹴り、少し踏み込んで右下段蹴りを放った時、蘭丸は違和感を感じた。
いったん間合いを外し、再度同じ組み立てで攻撃する。
やはり・・・

(おかしい)

何かを・・・左脚を・・・庇っている動きである。
攻撃を左脚中心に組み立ててゆく。

(やっぱり・・・しかし・・・罠ってことも)

いつもより慎重な自分に苦笑しながら攻撃を続ける。
ふと気付くと加茂をアリーナ外周部に追い詰めていた。
皮肉なことに蘭丸の追い詰められていた、その場所である。
加茂の『歩ヒョウ』=『D・D』からグリーンの外周部まであと三歩。

(終わっちまうぜ、おやじ)

攻撃のスピードを上げる蘭丸。
更に一歩下がり、残り二歩となった加茂。

(ここまでなのか)

蘭丸は左脚を大きく一歩踏み込み、いったん沈み込むように見せかけ注意を下方へ向けさせたところで伸び上がるように右の足刀を叩き込む。
ちょうど加茂の『歩ヒョウ』=『D・D』の喉元に叩きつけられた足刀は加茂のバランスを崩し、残りの二歩を後退させた。
加茂の『歩ヒョウ』=『D・D』の左脚はグリーンの外周部上にあった。




次章予告


前半とはうって変わった加茂は、意外なほどあっさり場外へ出た。

これが加茂の実力なのか、その真意とは・・・

外伝 第11巻
次章:第9章 THE BOUT VIII 勝負(8)

『文句(もんく)があるなら、かかってこいよっ』
(c)General Works