星乱拳客伝 外伝 −三つ目−

海賊のビルドアームに向かって疾走し、
飛んだ、黒い『歩ヒョウ』
しかし、掴み掛かったその手は宙を切り、
二体の距離は慣性の法則に従って離れ始めていた。
このままでは・・・
間に合うのか蘭丸よ・・・

星乱拳客伝 外伝 −三つ目− 第10巻

COLD METAL



第8章 the puppet master
人形使い

(間に合うか・・・)

ワイヤーを引きつつ走り出した碧い『歩ヒョウ』

チカ、チカッ

明滅する黒い『歩ヒョウ』
光信である。
その内容は・・・

(手出し無用?)

蘭丸が光信を確認した瞬間、
黒い『歩ヒョウ』は宙を切った右手の動作をそのまま回転運動へと移行し、
上半身を捻(ひね)り、更に回転を加速させつつ左後ろ回し蹴りを放った。

ビルドアームの頭部に黒い『歩ヒョウ』の左脚が疾る。

ゴンッ

衝撃がビルドアームのコックピットを襲う。

「『歩ヒョウ』のくせに・・・この野郎」

悪態をつきつつ更に、コントロールレバーを倒し込むビルドアームのパイロット。

「おとなしく、お星様になってろ『歩ヒョウ』野郎」

黒い『歩ヒョウ』の無謀とも思える行動に戸惑っていたのも束の間、
そこは数々の修羅場を潜り抜けてきた宇宙海賊といったところか、
すでに平常心を取り戻し、黒い『歩ヒョウ』と距離を開けるべく移動を始めていた。

「・・・?」
「どこ行きやがった」

ディスプレイの中に黒い『歩ヒョウ』の姿が見えない事に気付いたパイロット、

(・・・落っこちたか・・・)

メインディスプレイの映像を切り替えつつ、更に探索を続ける。

(どこにも、いねぇな・・・)

機体をぐるりと一回転させて確認し終えると通信機のスイッチを入れた。

「ティグ、黒い『歩ヒョウ』は始末した。今から碧いのに・・・」

そこまで言った時、

ごん ごん

異音?
マシンの不調か・・・しかし、

(コントロールが効かない・・・)

「待て。トーヤがそっちに向かってる、二人で協力して・・・」

通信機から声がする。

「この野郎・・・急にコントロールが効かなくなった」

「なに?大丈夫か?」
「とりあえずそこでトーヤと合流しろ、いいな」

そこまで、聞いたとき不意に機体が回転した。

「うわっ」

「どうした?」

「急に機体が回転して・・・」

「コントロールが戻ったのか?」

「いえ、違います」

いままでとは明らかに異なる声音が通信に割って入った。

「誰だ」「誰だ」

第3の通信者に誰何の声が飛ぶ。

「黒い『歩ヒョウ』の『ヒョウ師』です」

必死でディスプレイにその姿を求めるパイロット。
しかし・・・

(いない)
(いったい何処にいやがる)

虚空に消えた黒い『歩ヒョウ』
しかし、黒い『歩ヒョウ』は消えてなどいなかった。
近く。とてつもなく近くに、いたのである。
それは・・・
このビルドアームを外から見ることのできる者がいたとすれば、
背中に上下逆さまに貼り付いた人型の不気味な影に気付いただろう。

「一番『偉い』人と、お話がしたいのですが・・・」

通信機に『天道 歩』の声が響いた。




次章予告

海賊のビルドアームに取り付いた、

黒い『歩ヒョウ』の天道。

通信に割って入った天道に、策はあるのか?

はたして・・・

外伝 第10巻
次章:終章 again 邂逅(かいこう)

『文句(もんく)があるなら、かかってこいよっ』
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