星乱拳客伝 外伝 −三つ目−

新たなビルドアームに向かって、歩き始めた『天道 歩』
無重力の宇宙空間を気にする風もなく飄々を歩みを進める
蘭丸の歩ヒョウと同様に、自立航行する性能はない筈だが・・・
そして『ケリを付ける』とは一体・・・どう言うことなのか。

星乱拳客伝 外伝 −三つ目− 第10巻

COLD METAL



第7章 the silent fight (BLACK II)
静なる闘い(黒2)

虚空に浮かぶ巨大な宇宙貨物船。
その外板を・・・

一歩

歩みを進める、黒い『歩ヒョウ』

一歩

背中の天道虫(てんとうむし)が揺れる

一歩

その自信に溢れた歩みは無言の圧力と化して

一歩

宇宙海賊のビルドアームに襲いかかった。

更に、一歩

また更に、一歩

『歩み』はいつしか『疾走』と化していた・・・
『疾走』?
無重力の宇宙空間で、
しかも極端に凹凸の少ないこの貨物船のドーム型の外板を疾走する事など、
まかり間違えば、そのまま永久に宇宙を漂い続ける事にもなりかねない。
しかし・・・黒い『歩ヒョウ』の『疾走』に迷いは無かった。

チカッ チカッ チカッ

黒い『歩ヒョウ』が歩みを進める度にその足先が光った。

チカッ チカッ チカッ

針?
そう、『天道』の特器である針を使った歩行術であった。
太めの針を『コ』の字型に曲げ、
それを足の親指と人さし指、更に中指と薬指の間に挟み込み、
針の先を船の外板に潜り込ませることによって、
無重力空間での高速移動を可能にする歩行術である。
しかし・・・
何という技であろうか、この細い鋼の針に命を託すような、
打ち込むタイミングや角度を間違えれば、こんな針などたやすく折れてしまうであろう、
そんな状況で疾走するなど・・・

(正気の沙汰じゃねぇな・・・)

外板にへばりつきながら蘭丸は一人思った。

その間も、黒い『歩ヒョウ』の『疾走』は止まる事を知らず、
迫り来る黒い悪魔の無言の圧力に押されるように上昇を始めたビルドアーム、
外板からの距離は十数メートルといったところか、
この距離では身長六メートルほどの『歩ヒョウ』が届く距離ではない、
しかし、黒い『歩ヒョウ』の加速は続いた。

(どういうつもりだ『天道』・・・)

蘭丸の心配を知ってか知らずか、『天道』の黒い『歩ヒョウ』は・・・

(飛んだ)

更に上昇を続ける海賊のビルドアームに向かって、宙に躍り出た。

(・・・バカが)

見る間にビルドアームとの距離を縮める黒い『歩ヒョウ』
眼前に迫った黒い悪魔から逃れるかのように
急旋回をしつつ回避運動をとるビルドアーム。
掴み掛かろうと伸ばした黒い『歩ヒョウ』の右手は宙を切り、
『歩ヒョウ』は更に上方へ、ビルドアームは旋回しつつ後方へ漂いつつあった。

(世話焼かせやがって)

新しい分銅とワイヤーを準備しつつ、救出に向かう蘭丸であった。




次章予告

海賊のビルドアームに向かって疾走し、

飛んだ、黒い『歩ヒョウ』

しかし、掴み掛かったその手は宙を切り、

二体の距離は慣性の法則に従って離れ始めていた。

このままでは・・・

間に合うのか蘭丸よ・・・

外伝 第10巻
次章:第8章 the puppet master 人形使い

『文句(もんく)があるなら、かかってこいよっ』
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