星乱拳客伝 外伝 −三つ目−

虚空に消えた、一体のビルドアーム。
引き上げる事も出来ないまま、時間ばかりが過ぎて行く。
しかし、このまま留まる事も・・・
今、かつて無い恐怖が宇宙海賊を襲おうとしていた。

星乱拳客伝 外伝 −三つ目− 第10巻

COLD METAL



第5章 the silent fight (BLUE)
静なる闘い(碧)

漆黒の宇宙空間に浮かぶ半球型の宇宙貨物船。
その半球型の上部に明滅する、碧い光。

ちかっ ちかっ ちかっ

人型の光。

ちかっ ちかっ ちかっ

宙に漂う、束ねた長髪。

ちかっ ちかっ ちかっ

そして、三つの目・・・

ちかっ ちかっ ちかっ
ちかっ ちかっ ちかっ

『歩ヒョウ』そう呼ばれる、人型の巨人である。
宇宙船の外板に立ちはだかるその姿は、この宇宙船の守護神のようにみえた、
しかし・・・

「おい、上に誰かいるぞ・・・」

行方不明のビルドアームを探して、別のビルドアームが出てきていた。

「誰か人をやるから、そこで待ってろ」

「いや、オレが仇を取ってやる」

そう言って通信機のスイッチを切った男は、消息を絶ったジムの兄であった。

「叩っ殺してやる・・・」

腰にマウントしてあった、八角形の棒を数本取り出し一本につなげる。
丁度ビルドアームの全長と同じくらいの長さ(約6m)になった棒を槍のように構えた、

(行けぇ)

右足のペダルを踏み込むと、それに連動して背中の推進機が加速を始めた。
迫り来るビルドアームに気付かないのか動く気配はなく、明滅を繰り返すばかりである。

ちかっ ちかっ ちかっ

更に加速するビルドアーム、
半球型の外板を舐めるように碧い『歩ヒョウ』へと向かう・・・

ちかっ ちかっ ちかっ

不動の『歩ヒョウ』

ちかっ ちかっ ちかっ

更に加速する・・・

ちかっ ちかっ ちかっ

『ぶつかる』そう思った瞬間、碧い歩ヒョウは宙に舞っていた。
しかし、この歩ヒョウには自立航行する性能はない・・・このまま・・・
このまま永遠に宇宙を漂い続けるのか・・・
と、不意に空宙を舞うように大きく手を振ると、
如何なる力が働いたのか、無秩序な回転は静止し、
そこに重力が発生したかのように船の外板に降り立った三つ目の魔人。

キラッ

片膝をついた低い姿勢。
そして、何かを持ち上げているような左手で何かが煌めいた。
ワイヤー?
そう、これは蘭丸の流派の特器術であった。
船の外板に撃ち込まれた、いくつかの分銅、更にそこから伸びる幾筋かのワイヤー。
そのワイヤーを使っての移動術であった。

「舐めた真似しやがって・・・」

悪態をつきつつ急制動をかける八角棒のビルドアーム。
その姿を三つの目で睨み付ける碧い『歩ヒョウ』
十分な減速を待ちきれなかったのか、姿勢を崩しながら旋回を始めたビルドアーム。
その刹那・・・
だらりと下げていた、碧い『歩ヒョウ』の右腕が神速で引かれた。

キラッ

空気を・・・いや空間さえ切断しかねない勢いでワイヤーが空宙を疾り・・・

チカッ

ビルドアームの背中から左右に伸びた推進装置であろうアーム。
その片方のアームを根本付近から切断した。

「ちぃ・・・おい、聞こえるか。」
「『歩ヒョウ』だ、船に『歩ヒョウ』が取り付いてるぞ・・・」

通信機のスィッチを入れて、そこまで言ったとき。

チカッ

残った方のアームもろとも背中の推進装置が砕け散った。

空宙を回転しながら落ちて行くビルドアームを見つめる、碧い『歩ヒョウ』・・・
その背後に新たなビルドアームの影が迫っていた。




次章予告

立て膝をついて虚空を睨む、碧い『歩ヒョウ』。

その背後に忍び寄る巨大な影・・・

気付いているのか蘭丸よ、

この不利な体勢から如何にして・・・

外伝 第10巻
次章:第6章 the silent fight (BLACK I) 静なる闘い(黒1)

『文句(もんく)があるなら、かかってこいよっ』
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