星乱拳客伝 外伝 −三つ目−

海賊カラミティ・ジェーンの貨物船に収容される大小のコンテナ。
その積込み作業も終わろうとしているとき、
貨物船の左舷で、そのコンテナは見つかった。
開け放たれたコンテナ。
その中には・・・

星乱拳客伝 外伝 −三つ目− 第10巻

COLD METAL



第4章 the silent fight (RED)
静なる闘い(紅)

「空のコンテナ?」
「とっとと、捨てちまえ。あと5分だ、間に合うか」

積み荷の最終チェックをしていた、ジムに通信が入る。

「5分じゃぁ・・・、10分待ってくれ」

「とりあえず急げ」

「了解」

(どこのどいつだ、バカ野郎が・・・)

悪態をつきながらも、貨物船から伸びているマウンターアームに付いている、
コントロールパネルに入力を始めていた。
パネル横の簡易ディスプレイにデフォルメされたコンテナと、
接続箇所を示す緑の光点が4つ灯っていた。

ビルドアームの無骨な指先が器用にコントロールパネル上のキーを押して行く。

チカッ、チカッ、チカッ

簡易ディスプレイ、その左上の緑光が明滅し赤に変わった。
続いて左下、右上、そして最後に右下が赤く変わり、
コンテナの表示に変わって、『RELEASE』の文字が現れた。

「今、終わった。残りをざっと見てから戻る」

通信機に向かって言うと、もう2回ほどキーを叩いた。
貨物船の底部に引き込まれるマウンターアーム、
そして自らは、残った空コンテナの底部に潜り込みゆっくりと押し上げる。
ゆっくりと・・・

(よしっ・・・)

ゆっくりと船体から離れていくコンテナを見つめながらつぶやくと、
残りのコンテナの確認をすべく船体の方に向き直った。

コンテナの作り出す影が、船体の表面をその移動に合わせてゆっくりと移動して行く。

(・・・?)

コンテナの影から、次第に現れる紅い塊(かたまり)。

(何だ・・・)

もぞり

蠢(うごめ)く、紅い物体。

もぞり、もぞり

違和感がジムを臆病にした。
根元的な恐怖・・・
我知らず、腰のナイフに手を伸ばすビルドアーム。

ぎろっ

それは、睨んでいた。
目があるわけでは無かったが、それは確かに睨んでいた。
そして、数瞬・・・

「けやっ」

その恐怖心に耐えかねたジムは、はじかれたかのようにナイフを疾らせた。

(・・・!)

ジムには、その紅い歩ヒョウが不意に巨大化したように見えた。
そして、それがこの世で見た最後の映像となった。

貨物船の船体に、へばりつくように蹲(うずくま)った紅い歩ヒョウから逆しまに疾る銀光。
伸び上がった紅い巨人はその足の指で、しっかりと貨物船の外板から突き出たボルトを掴(つか)んでいた。
その頭上を両断されたジムのビルドアームが、遥か上方に落ちて行く・・・

「どうした、ジム・・・おぃ」

両断されたジムのビルドアーム、その通信機に通信が入る。
次第に消えゆくコックピットの空気、振動させる空気の無いまま通信は虚空に消えた。




次章予告

虚空に消えた、一体のビルドアーム。

引き上げる事も出来ないまま、時間ばかりが過ぎて行く。

しかし、このまま留まる事も・・・

今、かつて無い恐怖が宇宙海賊を襲おうとしていた。

外伝 第10巻
次章:第5章 the silent fight (BLUE) 静なる闘い(碧)

『文句(もんく)があるなら、かかってこいよっ』
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