星乱拳客伝 外伝 −三つ目−

蘭丸とラルクの邂逅から数十分前。
一台のビルドアームが港へ向かっていた。
8時間に一度の見回りの時間では無いは筈だが・・・
港に係留された、天道の貨物船。
このままでは・・・

星乱拳客伝 外伝 −三つ目− 第9巻

WALK ON THE WILD SIDE



第11章 Black Business X 仕事(10)

「ついてねぇなぁ」

アントニオは悪態をつきつつビルドアームを操っていた。

「OSのアップグレードした途端に動かなくなりやがって・・・」

二日前に行ったOSのアップグレードでセキュリティロボットが、
動作不能に陥ってるのが判明したのが、5時間ほど前の事。
本部の担当者と連絡をとりつつ修理していると突然、通信不能に陥った。

「とりあえず、誰か代わりに行ってこい」

保安部長が言った時には、周りの視線はアントニオに集中していた。

「したっぱ、だからなぁ」

プラント中心部のメインシャフトを3mほどの小型ビルドアームDK47で、
港へと向かうアントニオ。
[ビルドアームDK47:小型でも4mはあったビルドアームに、全高3.5mのDK1
が登場したのは、8年ほど前の事であったろうか。構内作業などでの機動性、操作性から
人気を博した。現在4代目を数えるこのDKシリーズは爆弾小僧(DYNAMITE KID)の
愛称で親しまれている。]

(・・・やっと着いたよ)

数メートルおきに設置された電灯が、薄暗くメインシャフトの内部を照らす。
その先が徐々に広がってゆく。

ガコン

メインシャフトの左右(無重力空間に上下左右は無いが・・・)をはしるハンドリフトから、
マニピュレータを外した。
そのまま滑るように5、6m進んで、

カチ、カチッ

操縦席でアントニオがコントロールパネルの右下のスイッチを二つ『ON』にし、
右足のペダルを軽く踏み込んだ。
と、前傾姿勢だったDK47の両脚が床面に近づき・・・

ガシャ、ガシャン

足裏の磁力で床面に吸い付きながら歩みを進めた。

ガシャン、ガシャン

(・・・ん?)

ABCと3つある『港』のうち、C『港』の出入口上部にあるランプが赤く点灯していた。
外部扉が開いているサインである。
操縦席のサブスクリーンに入港予定表を呼び出すアントニオ。

「次は3日後の予定だが・・・」

言いながら、C『港』のエアロックに空気を注入する。

ゴッ、ゴォォん

エアロックに入室可能になると同時に、メインシャフト側の二重扉が開いてゆく。

ガシャン、ガシャン

エアロックに進入しながら、手元のモードセレクタを『無重力・真空』に切り替えた。

がしゅ チシュゅゅっ

数十秒。ビルドアームの各所で真空に対応すべく作業が続き・・・

ピッ

メインスクリーンの上部に『30:00:00』という数字が現れ、

「のこり作業時間は、30分です」

合成音声が、残り空気量を知らせた。

ガ・チッ

エアロック内部のコントロールパネルに赤く『港』(BAY)と描かれているボタンを押すと、
メインシャフト側の二重扉が閉じられ、減圧が始まった。
コントロールパネル上のエアロック内圧力を示す数値とバーが減少していく。
そして、その数値がゼロの値を示した時、

ゴンッ

軽い振動とともに『港』へと続く二重扉が開いた。

(・・・?)

エアロックを出たアントニオの目前に、『港』へ係留された見慣れない貨物船が飛び込んできた。

「港に係留中の貨物船。所属と積み荷を報告せよ。港に係留中の貨物船・・・」

返答の無いまま、

「どこの船だ」

船尾をまわって、船首にあるであろう操縦席へと向かう途中、
貨物室の扉が大きく開いるのが見えた。

(ん・・・)

貨物室の中で何かが動いた。

「誰か、いるのか」

貨物室の中を覗き込んだ、その瞬間、

ぎぃん

向かって右側の暗闇から影が躍った。

「誰だ・・・」

右の肩口からオイルを撒き散らしながら、宙を舞うビルドアーム。
一旦、視界から消えた貨物船を再び捉えると、そこには・・・

「歩ヒョウ?」

貨物室の扉にしがみついて、こっちを睨み付ける紅い歩ヒョウ。
その右手には黒い長剣が握られていた。

「なん・・・」

その言葉を言い終わらないまま、

ぎぃぃぃん

黒い長剣に貫かれた、ビルドアームは爆発したかのようなエアーの流出で、
大きく『港』の壁に一度激突して、宇宙空間に消えた。

「どうも無重力は、いかんな」

『港』の鉄柵に掴まりながら、紅い歩ヒョウのラルクが言う。

「やってもぉた」

エアロックの上部、鉄柵付近のディスプレイなどに『WARNING』の文字が浮かび、
時を同じくして、プラントの内部では蘭丸と天道を隔てる鉄壁がせり上がってきていた。




次章予告

エレベーターの前にたどり着いた、
蘭丸と、ラルク。
二人の到着を待っていたかの様に、
エレベーターの扉は、開いていた。
しかし、
なぜかエレベーター内部の照明は消えていた。

外伝 第9巻
次章:終章 Black Business XI 仕事(11)

『文句(もんく)があるなら、かかってこいよっ』
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