星乱拳客伝 外伝 −三つ目−
虚空に浮かぶ宇宙貨物船。
その船体にしがみつく2つの巨大な人影。
『碧』と『黒』
『蘭丸』と『天道』
二体の『歩ヒョウ』
二人の『ヒョウ師』
その行き先は、その目的は・・・
WALK ON THE WILD SIDE
第2章 Black Business I 仕事(1)
「今回の仕事の内容は・・・」
薄暗い部屋のテーブルの上に浮かび上がった橙色の立体映像。
隕石か・・・いや、表面にへばりついた建造物は人工の物だ。
これは、
「この資源小惑星ですが、ある企業の所有物です」
「そして、この資源小惑星には変わった仕掛けがあります」
小さくキーを叩く音がすると、資源小惑星の立体映像の内側に深緑の円筒形が現れた。
「この小惑星は中空で、そこに実験プラントが隠されています」
「プラントといっても大きさは、小型の密閉型コロニーほどありますが」
またキーの音がすると、円筒形のプラントに赤い光点が点滅を始めた。
「仕事の最終目的は、この光点にある建物の中のデータ消去です」
「消去?データを消すだけなら、わざわざ・・・」
「いえ。正確に言うならデータの物理的破壊が目的です」
「物理的破壊。物理媒体の破壊か?しかし、複製なんていくらでも作れるだろう」
「仕事の依頼はデータ記録装置の物理的破壊です」
「コピーの有無は問題ではありませんし、詮索も不要です」
「私たちの仕事は、指定された時間内に指定された依頼を片づける事です」
「ちょっとまて、『私たち』って誰だ」
カチッと小さなスイッチ音がすると室内灯が息を吹き返した。
「もちろん、『私』=『天道 歩』と『あなた』=『榊 蘭丸』ですよ」
テーブル上の立体映像を透かして、向こう側の天道少年が微笑んでいた。
「では、仕事の手順の確認ですが・・・」
そんな会話を交わしたのが1週間前。
今や、辺境の宇中空間を小型の宇宙貨物船で航行している。
「蘭丸さん、聞こえますか」
出発前に渡された『糸電話』から天道の声が聞こえる。
[『糸電話』
説明:歩ヒョウはその構成素材であるHTの性質上、個体差はあるが一種のステルス効果を持っている。
天道の歩ヒョウはステルス効果が強く単独での隠密行動では強力な武器になるが、
今回のような場合それが仇になる。『光信』と言う手もあるが、光学的に監視している場合も少なくない。
そこで開発されたのが『糸電話』である。
形はヘッドセット状の本体とそこから伸びたワイヤーのアンテナ部から成っており、
このワイヤーを歩ヒョウに乗り込む時、歩ヒョウの開閉部に挟み込ませる事により外部からの電波の受信を可能にした。
このワイヤーアンテナの形状から『糸電話』と呼ばれるようになったらしい。]
「そろそろ目的地付近ですので、私が連絡するまで『光信』も『糸電話』もご遠慮下さい」
「了解した」
そう言って進行方向に目を移すと、視野のほとんどを埋め尽くさんばかりの巨大な岩塊が迫っていた。
次章予告
漆黒の宇宙空間に浮かぶ、巨大な資源小惑星。
表面には人工建造物や作業口らしい穴が無数に見受けられた。
その中の少し大きめの穴に、一隻の小型宇宙貨物船が入って行く。
辺境の宇宙。
そして、寂れた資源惑星と旧式の宇宙貨物船。
どこにでもある、ありふれた風景。
宇宙貨物船にしがみついた2つの巨大な人影を除いては・・・
外伝 第9巻
次章:第3章 Black Business II 仕事(2)
『文句(もんく)があるなら、かかってこいよっ』
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