星乱拳客伝 外伝 −三つ目−
紅い歩ヒョウの不可視の攻撃。
引き千切られる、三つ目の長髪。
その攻撃を辛くもかわした蘭丸であったが・・・
紅い歩ヒョウから吹き付ける殺気の荒まじさは、いったい。
ラルクおまえは・・・何者?
FIGHT THE GOOD FIGHT
第3章 Invisible fear みえざる物
「ちぃっ」
短く舌打ちしたのは碧い歩ヒョウを駆る『ヒョウ師』=『蘭丸』である。
左腕を抱え込んで、飄々(ひょうひょう)と蘭丸に近付いて来る紅い歩ヒョウのラルク。
しかし、その歩みとは裏腹に蘭丸へ吹き付ける殺気の凄まじさはどうだ・・・
(ひりひり しやがる)
紅い歩ヒョウが1歩進めば、碧い歩ヒョウも1歩後退し、
紅い歩ヒョウが2歩進めば、碧い歩ヒョウも2歩後退する。
距離にして5〜6mほどの間合いを挟んで対峙する2体。
5m。
その距離は先ほどラルクの不可視の攻撃が炸裂した距離である。
しかし、ラルクは攻撃を仕掛けようとしない。
無論、届かない訳ではない。
一度目は見えなくても、二度目は見える事がある。
不可視の攻撃は、不可視であるが故にその効力を100%発揮する。
何よりも、一度避けられている距離である。
だから、攻撃しない。
しかし、蘭丸も油断出来ない。
それが分かれば、ラルクの一撃が容赦なく襲いかかってくる、
そんな距離であり、それが『ひりひり』の正体である。
いつしか二体の間に不可侵の空間が出来つつあった。
「にいちゃん、そんなとっからやったら、とどかへんで」
ラルクの誘いである。
そう言う紅い歩ヒョウの歩みは止まらない。
しかし、この妙な訛り(スラング)は一体何だ?
「おまえ・・・誰だ?」
楕円形の闘技場を追いつめられないよう慎重に間合いを外しながら後退する蘭丸が返す。
「もう忘れたんかぃ、ラルクゃ。」
後退する碧い歩ヒョウを追う、紅い歩ヒョウが答える。
と・・・
(今だっ)
その言葉を聞き終わらないうちに蘭丸は、大きく後方にステップバックするや、構えていた右腕を大きく円を描くように背中に、ちょうど腰の辺りに回した。
「ヘヤッ」
気合いと共に後ろに回した右腕を先に倍する早さで、前方へ振る。
キゥン
異音と共に、振られた右手から鋼鉄のワイヤーが疾る。特器術である。
[ 特器術(とっきじゅつ)とは、各流派に伝わるその流派独自の特器即ちHT以外の材質を用いたヒョウ術の総称である。
蘭丸の流派の特器術は、先端に様々な形の分銅を付けた細いワイヤーを自在に操り、全力疾走の不可能な宇宙空間や無重力空間で高速移動を可能にするものである。
また、この特器術の原型は暗器からきたものとされており、今回のような使い方がむしろ本来の使用法であると言えよう。朧(おぼろ)などもその例の一つ。]
碧い歩ヒョウの手から放たれた分銅がワイヤーの尾を引きながら、距離を詰めてきた紅い歩ヒョウの首に絡み付く。
瞬間、蘭丸は再び右手を後方へ引きながら一気に距離を詰めた。
ぴゥン
2体の歩ヒョウを結ぶ糸が悲鳴を上げると、ガクンと紅い歩ヒョウの首が引っ張られる。
無論、蘭丸のワイヤーの仕業である。
「オッシャっ」
たたらを踏んだ紅い歩ヒョウの眼前に碧い歩ヒョウの右膝が迫る。
次章予告
ラルクの凄まじい殺気に、反則である特器術を使った蘭丸。
その必殺の右膝は・・・そして、
ラルクの不可視の攻撃は、
交錯する、『殺気』と『闘気』
その行方は・・・
外伝 第8巻
次章:第4章 Red Blast I 紅い旋風(1)
『文句(もんく)があるなら、かかってこいよっ』
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