星乱拳客伝 外伝 −三つ目−
見知らぬコロニー。
見知らぬ街角。
見知らぬ交差点。
立ち止まる、黒い美影身『ラルク』。
何処へ行くのか・・・
DON'T LOOK BACK
第1章 tea 紅茶
(シェルシェ・ミディSt.125番地って・・・)
薄手で足首まである、黒いロングコートの男が交差点で立ち止まる。
『ラルク』である。
手にした簡単な地図には、住所と『ティグレ・ブラン』の名前があった。
(でも、ここは・・・)
その住所には、ラルクの探す建物は無く、そこだけ場違いな、それでいて妙に、このコロニー=『京香(ケイカ)』に合っている、カフェがあった。
少し広めの、オープンテラスを擁したそれをそう呼んで良いのか解らなかったが・・・
(まっ、とりあえず・・・)
その開け放たれた入口をくぐり、時間帯のせいだろうか、客のまばらな店内の窓際の席に腰を下ろした。
「いらっしゃいませ」
白いシャツに蝶タイ、黒のズボンにベストの銀髪のギャルソンが、絶妙のタイミングで声をかけてきた。
「紅茶、お願いします」
「かしこまりました」
深すぎもなく、浅すぎもない角度に一礼して店の奥に消えていく。
(・・・しっかしなあ)
この一月余りの目まぐるしい展開、
こんな辺境コロニーにいる自分、
運命の不思議さ、
改めてそんなことを考えていると・・・
「お待たせしました」
どれくらい考え込んでいたのだろうか、さっきのギャルソンが紅茶をテーブルに置くところだった。
「ごゆっくりと」
さっきと同じ角度で、一礼するとギャルソンは帰って行く。
(・・・あのギャルソン、どっかで・・・)
「あのー。すいませーん。」
店の奥にむかって、声をかける。
(何処だったかな・・・)
思いを巡らせていたのも、束の間。
店の奥からギャルソンがやってきた、若い別のギャルソンが・・・。
白いシャツに蝶タイ、黒のズボンにベスト、そして黒い上着。
腕には銀の円いトレーを持ち、曲げた肘のところから白いナプキンを下げている。
「なにか、ご用でしょうか?」
すこし、高めの声でギャルソンが言う。
「さっきの銀髪の方は、ぁ・・・」
数秒間の沈黙の後、口をパクパクさせているラルクに向かってギャルソンが、
「これは店からです」
と、ガトーを乗せた白い皿ををテーブルに置く。
「ようこそ、『カフェ・ティグレ・ブラン』へ」
目の前に置かれた、白い皿に淡いグリーンで刷られた店名を瞳の大きな若い東洋系のギャルソンは言った。
ギャルソンの声で・・・
女の声で・・・
「『R』室長」
彼は・・・
いや彼女は、間違いようもない。
ラルクの上司であった。
次章予告
霧雨の中。
街の中心部から少し離れた、
場所にその建物はあった。
鈍く輝くネオン。
『Fay-Long Ballroom』。
そう読めた。
外伝 第6巻
次章:第2章 Fay-Long Ballroom I フェイロン賭博(1)
『文句(もんく)があるなら、かかってこいよっ』
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