星乱拳客伝 外伝 −三つ目−

湖底から生還した、蘭丸。
長剣を手にしたビルドアームに向かって、歩み始める。
肩から、
銀髪から、
そして、
その三つの眼窩から水を滴らせながら・・・。



終 章 cause ・・・IV 『ヒョウ師』であるが故に・・・(4)


ねじ切られたビルドアームの腕をタオルでもかけるように、右肩に担いで、

「邪魔者もいなくなったことだし・・・はじめようか」

その言葉を長剣のビルドアームはどうとったか。
宣戦布告か、死の宣告か。
そして、
歩き始める、水を割って。

ザバッ、ザバッ、・・・・・・

腰の辺りのあった水面が、膝、足首と下がって行く。

ザチャ、ザチャ、・・・・・・

「きみ、ちょっと・・・」

長剣を構えながら後ずさるビルドアーム。

ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、・・・・・・

  砂浜に上がっても『蘭丸』=『レン』の歩みは止まらず、ビルドアームの後退も又、止まらない。

「きみ、話し合おうじゃないか。」

この男には羞恥心が無いのか、自らが挑んだ戦いの最中に、

「きみ・・・」

再度、呼びかけた時、

ザッ

『蘭丸』=『レン』の右足が跳ね上がった。
しかし、この距離では・・・。

ザザァァ

砂浜の砂が霧のようにビルドアームを覆う。
朧霞(おぼろがすみ)である。(技の名前−朧霞(おぼろがすみ)。技の説明−砂や鉄粉などを霧状に撒き散らし目をくらます技である。目つぶし、目くらまし技『朧』(おぼろ)の一種。)

「わぁぁぁぁ」

叫んだビルドアームは無茶苦茶に、長剣を振り回した。

ガチン

何かが、振り回した長剣にぶつかる。

「何っ?」

しだいに、はっきりして行く視界の中で、ビルドアームは自らの足下に転がる、二つに断ち割られた右腕を確認して、

「やったー」

と、ごく当たり前な感想をもらした。
しかし、彼は理解していなかった。
砂浜に転がる、肩から肘と肘から先を身体から切り離すには、
2度その長剣を振るわねばならない事を・・・
そして、その右腕が何者の腕なのかという事を・・・

「やったな」

後ろから声を掛けながら、ビルドアームの肩に手をかける巨大な影。

「ありがとう」

無邪気に言う。
「あんな奴、大したことないよ・・・」

なおも言葉を続けようとする、ビルドアームを凍らせたのは、

「『大したことないよ、きみー』、だろ?」

の、一言だった。

影は動かず。
ビルドアームは動けなかった。
影にとっては、一瞬。
ビルドアームにとっては、無限とも思われる時間が流れ・・・

「へやっ」

裂帛の気合いと共に打ち込まれる拳。
いや、その右拳に握られているのは・・・

ドワシュッ

気合いが早かったか、破壊音が早かったか。
ビルドアームの腹部から覗く、鈍く光る物体は・・・ナイフ?
そう、右拳が握っているのは、湖底に沈んだビルドアームが持っていた小型の高分子ナイフだったのである。
その切っ先は機械油(マシンオイル)と、それと解る赤い液体をまとわり付かせていた。

ドウサッッ

軽く突き放すと、木偶のように倒れ込んだビルドアーム。
その背中には、深々と突き刺さったナイフの柄が違和感を醸し出していた。

「相手をみてから、ケンカ売れよ。」

第4巻 完




『文句(もんく)があるなら、かかってこいよっ』
You have a break till the next up date. You just got Lucky...

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