星乱拳客伝 外伝 −三つ目−
TOO LATE TO TURN BACK
序 章 gamble 裏賭博
高級ホテルのホール風の空間は、いつもと違う喧騒が支配していた。
その中心には、いかにも金持ち「ぼんぼん風」の20代ほどの男がいた、
「ぼかぁー、お金がどうこう言ってるんじゃぁーないんだ、きみ。」
「きみ」と呼ばれた、蝶ネクタイの店員の言葉を聞きもせず、
「ぼかぁー、八百長(やおちょう)は、いけないんじゃぁーないかと、言ってるんだよ、きみ。」
ほとほと、困り果てたのだろう店員は
「上の者を呼んで参ります」
と引っ込みかける、と。
「私どもの者が、何か失礼でも?」
と、客に劣らず高級スーツで身を包んだ男が、それだけ異質な、しかし当然のように漆黒のサングラスで、店員の後ろから現れた。
「いや、店員君を責めないでくれたまえ。ぼかぁー、八百長は・・・」
「当店は、そういった苦情は一切受け付けておりません。ご入店の際、ご説明いたしておりますが。」
言葉を遮られて、気分を害したのか、幾分語気を荒げて、
「お金の事は、いいんだよ。ただ、八百長はいけないと、ぼかぁー」
「お客様・・・」
「じゃぁー、僕と勝負させてくれれば、信じてあげるよ。」
「・・・へ?」
「ふんっ。やっぱり八百長なんだねぇ。僕なら五分であの『歩ヒョウ』沈めるよ。」
「お客様、ご無理をおっしゃられても・・・」
「きみぃー」
これ以上は無理と思ったか、サングラスの男が襟元の隠しマイクに何事か呟こうとした時、
「突然、失礼します。」
と声が、サングラス男の背中、「ぼんぼん風」の正面からした。
そこには、巨大スクリーンが控えており、声はそのスピーカーからであった。
「声だけの、ご挨拶で申し訳ございません。当店のオーナーでございます。」
意外に若い声が、スピーカーから緊迫した空間に流れてくる。
「お話は、伺っておりましたが、当店は八百長など一切行っておりません。ですから・・・」
「ですから?」
「ですから、こういたしましょう。」
さすがオーナーと言ったところだろうか。すっかり、この若い声の主のペースである。
「お客様、ご自身でお確かめ下さい。」
「僕自身で?」
「勝っても、負けても、八百長なし。いかがでしょう?」
「それは、願ったり叶ったりだよ、きみー」
「では、そう言うことで。カードを組ませていただきます。」
商魂逞しい、とはこの事か、このオーナーは「ぼんぼん風」の試合も賭博にするつもりらしい。
「それじゃまず。僕に、これだけだ。」
人差し指を立てた右手を高々と挙げて「ぼんぼん風」は、言った。
「一千万ユニオンだよ、きみー」
次章予告
傷ついた『歩ヒョウ』=『レン』をトレーラーに乗せた、『ヒョウ師』=『蘭丸』が行く。
その傷を癒やす為である。
しかし、何処へ
『歩ヒョウ』を修理できる人間とは?
『文句(もんく)があるなら、かかってこいよっ』
外伝 第4巻
次章:第1章 craftsman 職人
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