星乱拳客伝 外伝 −三つ目−

星乱拳客伝 外伝 −三つ目− 第4巻

TOO LATE TO TURN BACK



序 章 gamble 裏賭博


高級ホテルのホール風の空間は、いつもと違う喧騒が支配していた。
その中心には、いかにも金持ち「ぼんぼん風」の20代ほどの男がいた、

「ぼかぁー、お金がどうこう言ってるんじゃぁーないんだ、きみ。」

「きみ」と呼ばれた、蝶ネクタイの店員の言葉を聞きもせず、

「ぼかぁー、八百長(やおちょう)は、いけないんじゃぁーないかと、言ってるんだよ、きみ。」

ほとほと、困り果てたのだろう店員は

「上の者を呼んで参ります」

と引っ込みかける、と。

「私どもの者が、何か失礼でも?」

と、客に劣らず高級スーツで身を包んだ男が、それだけ異質な、しかし当然のように漆黒のサングラスで、店員の後ろから現れた。

「いや、店員君を責めないでくれたまえ。ぼかぁー、八百長は・・・」

「当店は、そういった苦情は一切受け付けておりません。ご入店の際、ご説明いたしておりますが。」

言葉を遮られて、気分を害したのか、幾分語気を荒げて、

「お金の事は、いいんだよ。ただ、八百長はいけないと、ぼかぁー」

「お客様・・・」

「じゃぁー、僕と勝負させてくれれば、信じてあげるよ。」

「・・・へ?」

「ふんっ。やっぱり八百長なんだねぇ。僕なら五分であの『歩ヒョウ』沈めるよ。」

「お客様、ご無理をおっしゃられても・・・」

「きみぃー」

これ以上は無理と思ったか、サングラスの男が襟元の隠しマイクに何事か呟こうとした時、

「突然、失礼します。」

と声が、サングラス男の背中、「ぼんぼん風」の正面からした。
そこには、巨大スクリーンが控えており、声はそのスピーカーからであった。

「声だけの、ご挨拶で申し訳ございません。当店のオーナーでございます。」

意外に若い声が、スピーカーから緊迫した空間に流れてくる。

「お話は、伺っておりましたが、当店は八百長など一切行っておりません。ですから・・・」

「ですから?」

「ですから、こういたしましょう。」

さすがオーナーと言ったところだろうか。すっかり、この若い声の主のペースである。

「お客様、ご自身でお確かめ下さい。」

「僕自身で?」

「勝っても、負けても、八百長なし。いかがでしょう?」

「それは、願ったり叶ったりだよ、きみー」

「では、そう言うことで。カードを組ませていただきます。」

商魂逞しい、とはこの事か、このオーナーは「ぼんぼん風」の試合も賭博にするつもりらしい。

「それじゃまず。僕に、これだけだ。」

人差し指を立てた右手を高々と挙げて「ぼんぼん風」は、言った。

「一千万ユニオンだよ、きみー」



次章予告

傷ついた『歩ヒョウ』=『レン』をトレーラーに乗せた、『ヒョウ師』=『蘭丸』が行く。

その傷を癒やす為である。

しかし、何処へ

『歩ヒョウ』を修理できる人間とは?
『文句(もんく)があるなら、かかってこいよっ』

外伝 第4巻
次章:第1章 craftsman 職人


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